第8章 Clayが変える営業とマーケティングの動き方
8-1 インサイドセールスの役割が変わる
多くの企業のインサイドセールスインサイドセールス訪問せずに電話やメールで見込み客と接点を持つ営業機能。聞き取りで得た情報は、フォームからは分からない購買グループの手がかりになる。用語集で見る →は、渡されたリストに上から順に電話をかけている。リストはMAMAマーケティングオートメーションマーケティングの実行と管理のための業務アプリケーション。用語集で見る →のスコアか、展示会の名刺か、購入した企業リストで、1件ごとの違いは会社名と電話番号だけである。架電の前に相手のサイトを5分見るのが精一杯で、話す内容は全員ほぼ同じになる。つながる率も、つながってから面談になる率も低い。
ClayClay企業やパーソンについて外にある情報を集め、AIで判断し、文面を作り、MA・SFAに書き戻す、営業・マーケティング向けのデータ処理ツール。画面は表計算ソフトに似ており、1行が1社または1人、1列が1つの問いに対応する。米国のClay Labs社が提供する。用語集で見る →を入れると、インサイドセールスに渡るものが変わる。リストの代わりに、シグナルシグナル顧客企業に起きた変化を示す情報。経営方針・組織・キーパーソン・採用・投資と業績・事業・導入ツールと体制・外部環境の変化があり、多くは公開されている情報から得られる。用語集で見る →が出た企業と、その企業について調べた結果(第5章5-7の次のアクション・スクリプト・提案方針)が届く。架電前の調査はClayが済ませているので、担当者は根拠URLを開いて事実を確かめ、スクリプトを自分の言葉に直すところから始められる。
役割は、「リストを消化する」から「シグナルを根拠に接点接点タッチポイント顧客と自社の間で起きる相互作用のすべて。マーケティング接点・営業接点・カスタマーサクセス接点・パートナー接点があり、商談も接点の一つである。用語集で見る →をつくる」に変わる。1日の架電件数は減るが、1件ごとの会話は相手の状況に合った内容になり、面談化率は上がる。インサイドセールスの評価指標も、架電件数から、シグナルへの対応速度と面談化率に変える必要がある。
8-2 営業とマーケティングが同じアカウントを一緒に動かす
マーケティングがリードを集め、インサイドセールスが電話で選別し、営業が商談する。この分業は、リードの量が多く、1件ごとの金額が小さい商材では効率がよい。しかし、対象企業が数百社に絞られ、1件の金額が大きく、購買に複数の部門が関わる商材では、引き渡しのたびに情報が落ち、相手から見ると「別の会社の人が別の話をしに来る」状態になる。
当社の支援先では、分業より、営業とマーケティングが同じアカウントを一緒に動かす形を取ることが多い。重要度の高い企業について、マーケティングはシグナルを検知して文面を用意し、営業はその文面を自分で送り、面談し、商談する。インサイドセールスは、営業が手の回らない企業の最初の接点を担う。誰が何をするかは企業ごとに決め、SFASFAセールスフォースオートメーション営業の実行と管理のための業務アプリケーション。用語集で見る →の企業レコードに書いておく。
Clayは、この形を支える。シグナルと文面がSFAの企業レコードに書き戻されているので、営業もマーケティングも同じ画面で同じ情報を見る。「マーケティングが何をしているか営業が知らない」「営業が持っている情報がマーケティングに戻らない」という状態が、仕組みとしてなくなる。
8-3 営業へのコンテキストの引き渡し:量と形
営業に渡す情報は、多ければよいわけではない。Clayが取った情報を全部渡すと、営業は読まずに電話をかける。
渡す情報は、第5章5-7で示した5つに絞る。シグナル(事実と根拠URL)、コンテキストコンテキストその顧客が今どんな状況にあり、なぜそれを求めているのかを説明するための情報。業種や規模と違い一社ごと・一人ごとに異なり、シグナル・自社接点・購買グループを組み合わせて組み立てる。用語集で見る →(そこから読める課題・ニーズとタイミング)、次のアクション、会話のスクリプト、提案の方針。この5つを、SFAの企業レコードの1画面に収まる量で書く。目安は、全部で400字以内である。
形も決めておく。シグナルは1行、コンテキストは2〜3行、次のアクションは1行、スクリプトは最初の一言と確認する質問を3つまで、提案の方針は商材名と切り口を1行。この形が毎回同じであれば、営業は読む場所を覚え、30秒で把握できる。形が毎回違うと、読まれなくなる。
営業からの戻りも設計する。面談で分かったこと(実際の課題、関わっている人、予算の時期)を、SFAの決まった項目に書いてもらう。この戻りが、次のシグナル検知と文面生成の入力になる。営業が書かなければ、Clayは同じ情報を何度も生成する。
8-4 3つの効果が売上を伸ばす
Clayを入れた組織で起きる変化は、3つに整理できる。
標準化
調べる、判断する、文面を書く、の手順が、列として固定される。誰が担当しても同じ手順で同じ情報が出る。担当者が変わっても、休んでも、手順は残る。
リソースの解消
調査と文面作成に使っていた時間が、面談と提案に使える。第1章で述べたとおり、1社1時間の調査を500社分やる時間は、人にはない。その時間がなくなることで、同じ人数で接触できる企業数が増える。
精度の向上
Why You NowWhy You Now「なぜ貴社に(Why You)」「なぜ今(Why Now)」「なぜ私たちが(Why Us)」の3つの問いへの答え。データから導かれる接触の根拠であり、営業を動かすのはリードの数やスコアではなくこの理由である。用語集で見る →の3要素が揃った文面が、全件で出る。経験の浅い担当者の文面と、経験のある担当者の文面の差が小さくなる。返信率と面談化率が、担当者によらず一定の水準に揃う。
この3つは、それぞれが売上を伸ばす。標準化は、担当者の入れ替わりによる落ち込みをなくす。リソースの解消は、接触できる企業数を増やす。精度の向上は、接触した企業のうち面談になる割合を上げる。接触数が増え、面談化率が上がれば、商談数が増える。売上の伸びが、担当者個人の力量に左右される度合いが下がる。
8-5 Clayの出力は、営業のガイドになる
5-7で渡す次のアクション・スクリプト・提案方針は、個別の案件への申し送りであると同時に、営業の行動の指針になる。「このシグナルが出たら、この順番で、こう話し、これを提案する」が、案件ごとに具体的な形で届く。
従来、この指針は営業マニュアルや研修資料に書かれていた。しかし、マニュアルは一般論で書かれ、目の前の案件にどう当てはめるかは営業の判断に任されていた。Clayの出力は、この会社のこの状況に対する指針である。一般論を応用する手間がない。届いたものをそのまま使い、必要なところだけ直せばよい。
この指針は、対応表対応表自社の商材にとって、どのシグナルが、どの課題を示し、何を提案できるかを定めた表。シグナル(事実)をWhy You Nowの3要素(課題・ニーズ、タイミング、提案できる要素)に置き換えるルールであり、業種や商材で答えが変わるため自社ごとに作る。Clayの判定と文面生成はこれに従って動かす。用語集で見る →(第4章4-3)に書かれた自社の判断を、案件ごとに展開したものである。対応表を直せば、全案件への指針が変わる。営業の動き方を変えたいとき、研修をやり直すより、対応表を直す方が早い。
8-6 セールスイネーブルメントとしての使い方
経験の浅い営業が育つまでには時間がかかる。何を調べ、何を読み取り、何を提案するかを、先輩の同行と自分の失敗から学ぶ。この期間を短くする取り組みがセールスイネーブルメントと呼ばれ、研修、ツール、コンテンツの整備がその中身である。
Clayは、このうち「何を調べ、何を読み取るか」の部分を代わりに行う。経験の浅い営業でも、コンテキストと提案方針が手元にあれば、経験のある営業と同じ水準の情報を持って会話を始められる。相手の状況を知らずに訪問して、話を聞いて帰ってくるだけ、という面談がなくなる。
これにより、教育の対象が変わる。従来は「調べ方」と「読み取り方」を教える必要があった。Clayがある組織では、「渡された情報の使い方」を教えればよい。スクリプトをどう自分の言葉に直すか、相手の反応に応じてどう質問を変えるか、提案方針をどう提案書に落とすか。教える範囲が狭くなり、育つまでの期間が短くなる。
8-7 AIマネジメントの始まり
Clayを運用すると、記録が残る。どの企業に、どのシグナルが出て、誰に通知され、いつ対応され、どう動いたかが、SFAに時系列で残る。
この記録は、マネージャーの指導の仕方を変える。従来のマネジメントは、月末の数字(商談数、受注額)を見て、足りなければ活動量を増やすよう指示する形だった。Clayの記録があると、「シグナルが出てから対応するまでに何日かかったか」「対応しなかったシグナルはどれか」「対応した結果、面談になったか」が見える。マネージャーは、月末の結果を待たずに、シグナルへの対応の有無と速さで具体的に指導できる。
この先には、CRMCRMCustomer Relationship Management顧客との関係と取引履歴を管理する仕組み。GTMの4レイヤーでは、SFA・MAと並ぶ業務アプリケーション層に位置づけられる。用語集で見る →が次のアクションを提示し、営業の動きを導く形がある。シグナルが出た時点で、誰が、いつまでに、何をするかがCRMから示され、対応の記録が自動で残り、結果が次の提示に反映される。売上の伸びが、人の質に依存しなくなる。当社がNEXT CRMと呼んでいるのはこの形であり、Clayはその最初に実装する仕組みになる。詳しくは既刊のNEXT CRM Playbookに譲る。
8-8 全社で顧客の関心が見えることで起きる問題
Clayで顧客のシグナルを全社で見えるようにすると、新しい問題が起きる。3つある。
コンフリクト
同じ企業に、複数の事業部や営業が同時に連絡する。相手から見ると、同じ会社から別々の人が別々の話をしてくる。顧客の関心に合う事業部が動くという原則(5-12)を決めていても、関心が複数の事業部にまたがる案件では起きる。
お見合い
逆に、誰も動かない。シグナルは全員に見えているが、自分の担当ではないと全員が思う。通知が広く届くほど起きやすい。
不適切なアプローチ
シグナルの意味を取り違えて連絡する。人員削減の発表を「組織変更のシグナル」として検知し、採用支援を提案する、といった例である。相手の状況への配慮を欠いた連絡は、関係を壊す。
この3つは、ツールでは防げず、ルールで防ぐ。コンフリクトには、企業ごとに最初に動く担当を1人決め、SFAに書いておく。複数事業部にまたがる案件は、マーケティング部門が調整してから動く。お見合いには、通知の宛先を担当者個人にし、対応期限を付ける。期限を過ぎたら次の人に回る仕組みにする。不適切なアプローチには、シグナルの種類ごとに「連絡しない条件」を対応表に書く。人員削減、不祥事、災害など、相手が困っている状況では、営業の連絡をしない。
ルールは最初から完全には作れない。問題が起きたら記録し、月に1回、ルールを見直す。これも第7章の改善サイクルの一部である。
次章では、本書の締めくくりとして、ClayをGTMエンジニアリングGTM EngineeringGo-To-Market EngineeringGTM戦略の7つの工程を、テクノロジーとAIで標準化し、自動化し、精度を上げ続けることで、完遂し、グロースさせる手段。多くの企業で欠けている、ターゲットと施策の間の工程を仕組みにする。用語集で見る →の中でどう位置づけるかを扱う。

