第2章 Clayの機能と位置づけ
2-1 Clayの4つの機能
ClayClay企業やパーソンについて外にある情報を集め、AIで判断し、文面を作り、MA・SFAに書き戻す、営業・マーケティング向けのデータ処理ツール。画面は表計算ソフトに似ており、1行が1社または1人、1列が1つの問いに対応する。米国のClay Labs社が提供する。用語集で見る →は、2017年に米国ニューヨークで創業したClay Labs社が提供する、営業・マーケティング向けのデータ処理ツールである。画面は表計算ソフトに似ており、1行が1社または1人、1列が1つの情報に対応する。利用者は、列を追加していくことで、企業やパーソンについて知りたい情報を集め、判断し、文面を作り、他のシステムへ渡す。
Clayの機能は、4つに分けて理解すると整理しやすい。
1. データエンリッチメント(情報の補完)
企業名やメールアドレスなど、手元にある少ない情報を起点に、150以上の外部データベンダーデータベンダー企業・パーソンの属性情報(業種、規模、所在地、法人番号、役職、連絡先など)を持ち、提供する事業者。得意な地域・業種・企業規模がそれぞれ異なる。Clayは情報そのものを持たず、複数のベンダーから取り出して組み合わせる。用語集で見る →から情報を取得して補完する。企業の正式名称、業種、従業員数、売上規模、所在地、Webサイト、パーソンの役職、部署、連絡先などである。複数のベンダーを順番に当てる「ウォーターフォールウォーターフォールWaterfall1つの問いに対して、複数のデータベンダーを順番に当てるデータ取得の方式。最初のベンダーで答えが見つかればそこで止まり、見つからなければ次へ進む。単一のベンダーより取得率が上がり、見つかった時点で止まるため後続のベンダーの利用料もかからない。用語集で見る →」という方式で取得する。この仕組みは第3章で説明する。
2. ワークフロー自動化
「新しい行が追加されたら」「特定の条件を満たしたら」といった条件で、一連の処理を自動的に実行する。毎週決まった時刻に対象企業のシグナルシグナル顧客企業に起きた変化を示す情報。経営方針・組織・キーパーソン・採用・投資と業績・事業・導入ツールと体制・外部環境の変化があり、多くは公開されている情報から得られる。用語集で見る →を確認する、条件に合った企業だけを次の処理に進める、結果をSFASFAセールスフォースオートメーション営業の実行と管理のための業務アプリケーション。用語集で見る →に書き込む、といった運用を人手なしで続けられる。
3. AIエージェント(Claygent)によるWebリサーチ
ClaygentClaygentクレイジェントClayの機能の一つで、利用者が書いたプロンプト(自然文の指示)に対して、Webサイトを読んで答えを返すAIエージェント。データベンダーには載っていない「この企業が今何に取り組んでいるか」を企業ごとに調べ、根拠となるURLも返す。用語集で見る →(クレイジェント)は、利用者が書いたプロンプト(自然文の指示)に対して、Webサイトを読んで答えを返す機能である。「この企業は直近1年以内に新工場の建設を発表しているか」「この企業の中期経営計画で重点領域とされているのは何か」といった、データベンダーには載っていない情報を、企業ごとに調べて返す。答えを要約するだけでなく、根拠となるURLも返すため、人が確認できる。
4. MA・SFA・外部ツールとの連携
Salesforce、HubSpot、Marketo、Outreachなどの主要なMAMAマーケティングオートメーションマーケティングの実行と管理のための業務アプリケーション。用語集で見る →・SFA・営業支援ツールと接続できる。MA・SFAから対象企業を読み込み、処理した結果をMA・SFAの項目に書き戻す。Slackへの通知、スプレッドシートへの出力、Webhookによる任意システムへの送信にも対応する。
この4つのほかに、Clayには次の機能がある。対象企業・パーソンの変化を監視して通知するSignals、自社サイトの訪問企業をIPアドレスから判定するWeb Intent、メールを配信するSequencer、企業とパーソンのレコードを保持するAudiencesである。Signalsは第4章と第5章で、Web Intentは第6章で、Audiencesは次の2-2で扱う。Sequencerは本書では使わない。送信の経路をMA・SFAに置き、配信の同意と送信履歴をMA・SFAで一元管理するためである(第7章7-4)。
この4つは、1つのテーブルの中で順番に使う。MA・SFAから読み込んだ企業に対して、データベンダーで基本情報を補完し、Claygentでシグナルを調べ、条件に合った企業だけに文面を生成し、SFAに書き戻す。この一連の処理が、1つの画面で完結する。
2-2 Clayの上で試し、形が決まったものをMA・SFAに書き戻す
Clayは処理のためのテーブルだけでなく、Audiencesという機能で企業とパーソンのレコードを保持し、更新し続けることもできる。対象企業の一覧を作り、シグナルの履歴を残し、条件で絞り込んで取り出す、という使い方ができる。ただし、通常のテーブルには1テーブルあたり50,000行・70列という上限があり、Audiencesはエンタープライズ契約向けの機能である。
ただし、Clayの使われ方として適しているのは試行である。Clayという名前は英語で粘土を意味する。その名前のとおり、Clayの中では、列を足し、消し、条件を変え、別のデータベンダーに切り替え、Claygentへの問いの書き方を直す、という作業を、MA・SFAに影響を与えずに繰り返せる。どの情報を取れば判断に使えるか、どの条件で絞ればよい対象が残るか、どの文面なら返信が来るかは、最初から分かっていることではない。Clayの上で試し、結果を見て直し、形が決まった時点で、MA・SFAの項目を定義し、書き戻す。
この進め方ができるのは、Clayがデータベースのような事前設計を必要としないからである。MA・SFAやデータ基盤では、項目を1つ追加するにも、型と名前を決め、他の項目との関係を確認し、既存のデータへの影響を見てから変更する。Clayでは、列を1つ足せばその場で結果が返る。対象企業を50社入れて、取りたい情報が取れるか、判定が成り立つか、文面が使えるかを、その日のうちに確かめられる。概念実証(PoC)に、設計の期間も開発の期間も要らない。
試して駄目だった場合の扱いも軽い。うまくいかなかった列は列ごと消せばよく、テーブルの組み方が違っていればテーブルごと捨てて小さく作り直せる。MA・SFAには何も書いていないので、失敗の跡が残らない。小さく試し、残ったものだけをMA・SFAに反映する、という順番で進められる。
Clayの内部にも企業・パーソンのIDはある。ただし企業のIDはLinkedInの会社ページを基準に振られるため、同じドメインでもページが違えば別のIDになり、LinkedInページを持たない企業には振られない。日本企業の多くはこれに当たる。このIDはMA・SFAには引き継がれない。顧客情報の正はMA・SFAに置き、突合のキーもMA・SFA側のレコードIDを使う。詳細は第6章6-1で扱う。
本書でのClayの役割は、MA・SFAの外にある情報を取りに行き、試しながら整え、形が決まったものをMA・SFAに書き戻し続けることである。第6章の実装では、この前提でデータの流れを設計する。
2-3 海外で支持されている理由
Clayは、2025年から2026年にかけて海外の営業・マーケティング組織で急速に普及した。2026年9月時点で顧客数は17,000社を超え、OpenAI、Anthropic、Google、Stripe、Siemens、UPS、Visaなどが利用している。年間経常収益は2025年12月に1億ドルを超えた。2026年9月には、Wellington Managementが主導するシリーズDで1億1,500万ドルを調達し、企業評価額は71億ドルとなった。
普及した理由は、主に3つある。
複数のデータベンダーを1つの画面で使えること。 従来は、企業情報はA社、人物情報はB社、技術情報はC社と、ベンダーごとに契約し、それぞれの画面で検索し、結果を手作業で突き合わせていた。Clayでは、150以上のベンダーが1つのテーブルの中で使える。1社のベンダーで見つからなかった情報を、次のベンダーで探す、という処理が自動で行われる。
AIで調査を自動化できること。 データベンダーが持っているのは、企業の属性情報である。「この企業が今何に取り組んでいるか」は、データベンダーには載っていない。Claygentが登場したことで、人がWebを読んで調べていた作業を、企業ごとに自動で実行できるようになった。Claygentの累計実行回数は2025年6月に10億回を超えている。
営業・マーケティングの実務者が自分で組めること。 プログラミングを必要とせず、表計算ソフトの操作に近い感覚で処理を組める。担当者がその日のうちに試せる。情報システム部門に依頼して数か月待つ必要がない。海外では、Clayを使って営業・マーケティングの仕組みを組む職種が「GTMGTMGo-To-Market製品・サービスを市場に届けて収益化するまでの一連の設計。日本語圏では Google Tag Manager と略称が重なるため、文脈に注意が要る。用語集で見る →エンジニア」と呼ばれるようになり、求人も増えている。第9章で述べる当社のGTMエンジニアリングGTM EngineeringGo-To-Market EngineeringGTM戦略の7つの工程を、テクノロジーとAIで標準化し、自動化し、精度を上げ続けることで、完遂し、グロースさせる手段。多くの企業で欠けている、ターゲットと施策の間の工程を仕組みにする。用語集で見る →は、この動きと同じ方向にある。
2-4 全世界の企業データを扱える
Clayが接続しているデータベンダーの多くは、北米・欧州・アジアを含む全世界の企業とパーソンの情報を持っている。英語圏の企業情報については、ベンダー間で補い合うことで高い取得率が得られる。
日本企業については事情が異なる。海外のデータベンダーは、日本企業の情報の取得率が英語圏より低い。特に、法人格や拠点の違い、担当者の氏名の表記、部署名などは、海外のベンダーでは十分に取れないことが多い。このため日本企業を対象にする場合は、MA・SFA側に既にある国内データベンダー(uSonar、Sansan DataHubなど)の企業情報をそのまま使う。業種、売上規模、従業員数、法人番号法人番号国税庁が全法人に付番する13桁の番号。企業の名寄せに使える公的キー。用語集で見る →、グループ関係といったセグメント情報はMA・SFAの項目から読み込み、Clayは欠けている情報と、国内ベンダーが持っていない情報を補う役割にする。欠けている情報は海外ベンダーで、国内ベンダーに載っていない「今何に取り組んでいるか」はClaygentのWebリサーチで取る、という組み合わせになる。詳細は第3章の3-6で扱う。
日本企業と海外企業を、同じテーブル、同じ手順で扱える。国内の対象企業と海外の対象企業で、別々のツール、別々の運用を持つ必要がない。
2-5 グローバル企業では、海外販社のリードを本社で整えて渡せる
日本に本社を置き、海外に販売会社や現地法人を持つ企業では、本社のMA・SFAに海外のリードが集まっているケースが多い。グローバルで共通のWebサイトやMAを運用していれば、問い合わせや資料請求は国を問わず本社のシステムに入る。しかし、そのリードの企業情報は国によって精度が異なり、どの販社に渡すべきか、渡したあとに販社が対応したかが、本社から見えにくい。
Clayを使うと、本社のMA・SFAに入った海外のリードを、国を問わず同じ基準で補完できる。企業の正式名称と所在国を確定し、従業員規模と業種を取得し、担当すべき販社を判定し、その販社のSFAの項目に書き戻す。販社ごとにデータベンダーを契約する必要はなく、本社で一度組んだ処理を、全ての国のリードに適用できる。
この使い方は、海外販社のマーケティング機能が小さく、本社がデータの整備を担う必要がある企業で有効である。第5章のユースケース5-3で、処理の構成を示す。
2-6 MA・SFA・データベンダー・RPA・AI SDRツールとの違い
Clayは、既存のツールのどれかを置き換えるものではない。それぞれとの違いを整理する。
MA・SFAとの違い。 MA・SFAは、顧客との接点接点タッチポイント顧客と自社の間で起きる相互作用のすべて。マーケティング接点・営業接点・カスタマーサクセス接点・パートナー接点があり、商談も接点の一つである。用語集で見る →を記録し、管理するツールである。Clayは、MA・SFAの外にある情報を取りに行き、MA・SFAに渡すツールである。Clayを導入してもMA・SFAは必要であり、ClayはMA・SFAに入れる情報の質と量を増やす。
データベンダーとの違い。 データベンダーは、企業・パーソンの情報を持っている。Clayは、複数のベンダーから情報を取り出し、組み合わせ、判断し、加工する。情報そのものは持っていない。Clayを使う場合も、情報の元はベンダーであり、ベンダーの利用料はClayのクレジットとして支払う。
RPAとの違い。 RPAは、人が画面上で行っている操作をそのまま再現する。Clayは、データに直接接続し、AIによる判断を処理の中に含められる。「この企業は条件に合うか」をAIが読んで判断する処理は、RPAでは組めない。
AI SDRSDRSales Development Representative見込み客への初期接触と商談化を担う役割。インサイドセールスのうち、新規開拓側を指すことが多い。用語集で見る →ツールとの違い。 AI SDRと呼ばれるツールは、見込み客の調査から、文面の作成、メールの送信、返信への対応までを自動で行う。調査と送信が一体になっているため、導入は早い。一方で、誰に・何を・いつ送るかの判断をツール側に委ねることになり、自社の設計で変更できる範囲が限られる。ClayにもSequencerという配信機能はあるが、調査・判断と送信が分かれており、送らずに止めることも、MA・SFAから送ることもできる。本書では、調査と判断の根拠を組み立てるところまでをClayが担い、送るかどうか、どの経路で送るか、誰が送るかは、自社のMA・SFAと人の確認の中に置く。自社の営業プロセスに合わせて組みたい企業、送信前に人が確認する必要がある企業には、この構成が合う。
次章では、Clayの基本構造であるウォーターフォールと、列を積み上げて一社分の情報を組み立てる仕組みを説明する。

