CLAY COMPLETE 第1章 / 全11章 読了 約8分 / 4,539字 著者:垣内 良太 SHARE

第1章 なぜ今、Clayなのか

はじめに

本書は、Playbookシリーズの第6弾である。これまでのシリーズでは、GTMエンジニアリングGTM EngineeringGo-To-Market EngineeringGTM戦略の7つの工程を、テクノロジーとAIで標準化し、自動化し、精度を上げ続けることで、完遂し、グロースさせる手段。多くの企業で欠けている、ターゲットと施策の間の工程を仕組みにする。用語集で見る →、AI ReadyAI Readyレベニューサイクル全体でAIが価値を出せるよう、データ・プロセス・組織が整った状態。用語集で見る →、キャンペーンマネジメントキャンペーンマネジメント施策を「キャンペーン」という管理単位に立て、投資と売上を接続して評価・意思決定する運用。用語集で見る →、ABMABMAccount Based Marketing/アカウントベースドマーケティング重要なアカウント(企業)を選定し、企業単位で最適なアプローチを設計するマーケティング手法。起点を「個人の獲得」から「企業の選定」へ移す考え方。用語集で見る →、NEXT CRMCRMCustomer Relationship Management顧客との関係と取引履歴を管理する仕組み。GTMの4レイヤーでは、SFA・MAと並ぶ業務アプリケーション層に位置づけられる。用語集で見る →と、BtoBの売上をつくるための考え方と設計を扱ってきた。本書は初めて、特定のツールの名前を表題に掲げている。

ClayClay企業やパーソンについて外にある情報を集め、AIで判断し、文面を作り、MA・SFAに書き戻す、営業・マーケティング向けのデータ処理ツール。画面は表計算ソフトに似ており、1行が1社または1人、1列が1つの問いに対応する。米国のClay Labs社が提供する。用語集で見る →は、企業やパーソンについて外にある情報を集め、AIで判断し、文面を作り、MAMAマーケティングオートメーションマーケティングの実行と管理のための業務アプリケーション。用語集で見る →・SFASFAセールスフォースオートメーション営業の実行と管理のための業務アプリケーション。用語集で見る →に書き戻すツールである。海外では2025年から2026年にかけて急速に普及し、日本でも導入が始まっている。しかし、ツールの機能を知ることと、自社の売上が伸びる形で使うことは別である。本書で説明するのは後者である。

前作のNEXT CRM Playbookで、当社は「MA・SFAに蓄積した接点接点タッチポイント顧客と自社の間で起きる相互作用のすべて。マーケティング接点・営業接点・カスタマーサクセス接点・パートナー接点があり、商談も接点の一つである。用語集で見る →の記録だけでは、Why You NowWhy You Now「なぜ貴社に(Why You)」「なぜ今(Why Now)」「なぜ私たちが(Why Us)」の3つの問いへの答え。データから導かれる接触の根拠であり、営業を動かすのはリードの数やスコアではなくこの理由である。用語集で見る →は語れない」と述べた。相手の課題とタイミングは相手の側で起きていることであり、自社のシステムの中にはない。外から取りに行く必要がある。本書は、その「取りに行く」部分を、Clayでどう組むかを書いた一冊である。

読者として想定しているのは、大手企業のマーケティング部門、営業企画部門の担当者と責任者である。Clayを知らない方のために、第1章から第3章で、なぜ今このツールが必要か、何ができるツールか、どういう構造で動くかを説明する。第4章と第5章で、取りに行くシグナルシグナル顧客企業に起きた変化を示す情報。経営方針・組織・キーパーソン・採用・投資と業績・事業・導入ツールと体制・外部環境の変化があり、多くは公開されている情報から得られる。用語集で見る →の考え方と、具体的なユースケース13本を示す。第6章と第7章で、MA・SFAとの連携の実装と、運用し続けるためのコスト・品質・ガバナンスを扱う。第8章と第9章で、この仕組みが営業とマーケティングの動き方をどう変えるか、当社の言うGTMGTMGo-To-Market製品・サービスを市場に届けて収益化するまでの一連の設計。日本語圏では Google Tag Manager と略称が重なるため、文脈に注意が要る。用語集で見る →エンジニアリングの中でClayがどこを担うかを述べる。

本書に書いた設計、実装、運用の内容は、当社が自社の営業・マーケティングでClayを使い、試して残ったものである。お客様に提案する前に自社で試す。この姿勢は、本書の内容にもそのまま当てはまる。

Clayは、今日の時点で最もよくできた手段の1つである。しかし、手段は変わる。変わらないのは、「誰に、なぜ今、何を」を一社ずつ組み立て、人が動ける形で渡す、という仕組みの形である。本書がその形を組む助けになれば幸いである。

1-1 営業面談の前に、候補はほぼ決まっている

当社が2025年9月から10月にかけて実施した「BtoB購買プロセス白書2025」(n=600)では、営業面談に立ち会った購買担当者の85%が、最初に営業と面談した時点で候補企業を絞り込んでいた(n=96)。提案を受けた社数は平均4.4社である(n=94)。

この数字が示しているのは、営業が初めて相手と会う時点で、相手はすでに比較の途中にいるということだ。候補の一覧はできていて、その中から提案を受ける数社が選ばれている。営業面談は、候補に入ったあとの確認の場になっている。

営業の提案力や面談の進め方を高めれば、候補に残った数社の中で選ばれる確率は上がる。しかし、候補に入っていない企業には、そもそも面談の機会がない。本章では、この「候補に入る前」に何が必要かを整理する。

営業面談の前に、候補はほぼ決まっている
図1-1:面談前に決まる購買の実態

1-2 結論が出る前に仕掛ける

候補に入っていなければ、比較の対象にならない。提案の良し悪し以前に、提案の機会が生まれない。選ばれるためには、相手が候補を決める前に接点を持っておく必要がある。具体的には、相手が検討を始めた時点、あるいは検討を始めるきっかけが生まれた時点である。

問題は、その時点を外から見分けられるかどうかだ。検討を始めた企業が、その日に問い合わせフォームを送ってくるわけではない。相手の社内で何かが起きてから、こちらに連絡が来るまでには時間差があり、その間に相手は自分で調べ、候補を決めていく。

一方で、検討が始まる前後には、外から観察できる動きがある。新しい拠点の開設、特定の職種の採用、中期経営計画での重点領域の公表、担当役員の交代、展示会への出展。こうした動きを本書では「シグナル」と呼ぶ。シグナルの種類と読み方は第4章で詳しく扱う。ここで押さえておきたいのは順番である。先に動く必要があり、先に動くためには、いつ動くかを知る手がかりが要る。

相手の結論が出る前に、接点を持つ
図1-2:検討開始と営業面談の間で仕掛ける位置

1-3 仕掛けるには「Why You Now」が要る

早く動けばよいわけではない。検討を始めたばかりの相手に、こちらの会社案内を送っても読まれない。相手が自分の時間を使って読む理由が要る。

本書ではその理由を「Why You Now」と呼ぶ。なぜ他社でなくあなたの会社から(Why You)、なぜ今(Now)、連絡が来たのか。この2つの理由が最初の数行に書かれていれば、相手は「自分の会社の、今の状況を分かったうえで連絡してきている」と受け取り、先を読む。書かれていなければ、誰にでも同じ文面を送っている営業メールと見なされ、開かれても読まれない。

Why You Nowを成り立たせる要素は3つある。既刊のNEXT CRM Playbookと同じ整理である。

  1. 顧客の課題・ニーズ:相手がいま何に困っているか、何を達成しようとしているか
  2. タイミング:なぜそれが今なのか。何が起きて、いつまでに必要なのか
  3. 解決・提案できる要素:その課題とタイミングに対して、自社が何を提供できるか

この3つが揃って初めて、相手にとって読む価値のあるアプローチになる。例えば、部品メーカーが新工場の建設を発表し(タイミング)、同時に品質管理部門の人員を募集している(課題・ニーズ)とすれば、検査工程の自動化を扱う会社にとっては、立ち上げ時の検査体制について提案できる(提案できる要素)。この3つが一文に収まるアプローチと、「弊社は検査装置を扱っております」というアプローチでは、読まれ方が変わる。

1-4 お客様は自分で調べている。しかし、自社サイトに来なければ存在しないのと同じである

「BtoB購買プロセス白書2025」では、購買担当者が情報収集に使う手段も聞いている。自社のWebサイト、比較記事、展示会、同業者からの紹介に加え、AI検索を使う担当者が出てきている。初めてその分野の製品やサービスを認知した経路としてAI検索を挙げた割合は8.8%、以前より使うようになった情報源としてAI検索を挙げた割合は12.3%である。多数派ではない。しかし増えている途中であり、この数字は調査のたびに上がると見ている。

この行動は、売り手にとって2つのことを意味する。1つは、お客様は売り手が説明する前に、多かれ少なかれ自分で結論を出しているということ。もう1つは、その調べ物の中に自社が現れなければ、候補に入る機会がないということだ。

これまで売り手は、SEOと広告で自社サイトに来てもらうことで、この問題に対応してきた。しかし、検索結果の上位は固定化し、広告の単価は上がり続けている。AIが複数のサイトを読んで要約して答える場面では、サイトに来てもらうこと自体が起きにくい。自社サイトへの訪問を待つ方法だけでは、届かない相手が確実に増えている。

であれば、こちらから相手を見つけ、相手の状況に合わせた連絡で、相手に動いてもらう必要がある。1-2で述べた「結論が出る前に仕掛ける」は、これを実行することである。

1-5 MA・SFAの中にあるデータだけでは、Why You Nowは書けない

では、Why You Nowを書くための情報はどこにあるのか。

MAに記録されているのは、メールの開封、Webページの閲覧、資料のダウンロード、フォームの入力である。SFAに記録されているのは、商談の履歴、担当者、受注と失注の結果である。いずれも、自社との接点の記録だ。自社と接点を持っていない企業やパーソンの情報は、MA・SFAの中には存在しない。

接点のある相手についても、MA・SFAのデータから分かるのは「自社のコンテンツに反応したかどうか」までである。相手がなぜ今その情報を見ているのか、社内で何が起きているのかは、記録されていない。Why You Nowの3要素のうち、課題・ニーズとタイミングは相手の側で起きていることであり、MA・SFAの外にある。MA・SFAのデータは、3つ目の「自社が提案できる要素」を考えるときの参考にはなるが、1つ目と2つ目は外から持ってくる必要がある。

NEXT CRM Playbookでは、この問題を「4つのデータソース」として整理した。MA・SFAの蓄積データ、データベンダーデータベンダー企業・パーソンの属性情報(業種、規模、所在地、法人番号、役職、連絡先など)を持ち、提供する事業者。得意な地域・業種・企業規模がそれぞれ異なる。Clayは情報そのものを持たず、複数のベンダーから取り出して組み合わせる。用語集で見る →の企業情報、Web上の公開情報、会話や商談の記録である。本書が扱うのは、このうち外にある情報を取りに行く部分である。

1-6 一社ずつ調べれば書ける。しかし、人の手では間に合わない

外にある情報は、一社ずつ調べれば分かる。相手のWebサイト、IR資料、採用ページ、ニュースリリース、担当役員のインタビュー記事を読めば、30分から1時間で、Why You Nowの下書きは書ける。重要な顧客に対して、営業が昔から面談前にやってきたことだ。

問題は対象の数である。ターゲット企業が500社あれば、1社1時間でも500時間になる。1社に関わるパーソンは1人ではない。白書では、高価格帯の購買に関与する人数は平均18.3人(中央値5人)だった。さらに、相手の状況は変わる。一度調べて終わりにはならず、新しいシグナルが出るたびに見直す必要がある。

現実には、インサイドセールスインサイドセールス訪問せずに電話やメールで見込み客と接点を持つ営業機能。聞き取りで得た情報は、フォームからは分からない購買グループの手がかりになる。用語集で見る →が架電の前に5分だけ相手のサイトを見る、という運用が上限になりやすい。5分で分かるのは事業内容までで、課題・ニーズとタイミングまでは分からない。結果として、連絡の文面は全員にほぼ同じものになり、読まれない。調べれば書けるのに、調べる時間がないために書けない。これが、多くの営業・マーケティング組織の現状である。

1-7 調査・判断・文面作成を仕組みにするツールとしてのClay

ここまでの流れを整理する。

  • 相手の結論が出る前に動く必要がある
  • 動くには、相手が読む理由であるWhy You Nowが要る
  • Why You Nowに必要な課題・ニーズとタイミングは相手側の情報で、MA・SFAの中にはない
  • 外から調べれば分かるが、人の手では対象の数に対して時間が足りない

必要なのは、人がやっていた「調べる・判断する・文面を書く」という手順を、手順のまま仕組みとして実行する方法である。

Clayは、そのためのツールだ。企業やパーソンを指定すると、複数のデータベンダーとWeb上の公開情報から情報を集め、AIで内容を判断し、一社ごとに異なる文面を作り、結果をMA・SFAに書き戻す。人が1社1時間かけていた作業を、同じ手順で、数百社・数千社に対して継続的に実行できる。

Clayには、メールを配信する機能(Sequencer)もある。しかし本書で扱うのは、調べて、判断の根拠を組み立て、営業やインサイドセールスが動ける形で渡す部分である。送信の経路はMA・SFAに置き、送るかどうか、どう送るかは、自社の設計と人の確認の中に残す。この分け方の理由は第2章で述べる。

次章では、Clayが何をするツールなのかを、機能と位置づけから説明する。

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Why You Nowに必要な課題・ニーズとタイミングは、相手の側で起きていることであり、MA・SFAの中にはありません。外から調べれば分かりますが、人の手では対象の数に対して時間が足りない。第2章では、その「調べる・判断する・文面を書く」を仕組みにするClayが何をするツールなのかを、4つの機能と既存ツールとの違いから説明します。全10章を通して読みたい方、社内で共有したい方は、図版を含む全51ページのPDF版をご利用ください。

WHITE PAPER PDF版

MAとSFAに足りないデータは、外から取りに行く。

営業が初めて会う時点で、相手はすでに比較の途中にいる——先に動くには「なぜ今、この会社に」という理由が要り、その根拠となる相手の課題とタイミングはMA・SFAの外にあります。本書は、人が1社1時間かけていた調査・判断・文面作成をClayで仕組みにし、MA・SFAに書き戻して営業が動ける形で渡すまでを示した、全51ページ・図版17点の実務書です。

  • 営業面談の前に候補が絞り込まれる購買の実態と、MA・SFAのデータだけではWhy You Nowが書けない理由(第1章)
  • Clayの4つの機能と、MA・SFA・データベンダー・RPA・AI SDRツールとの違い。ウォーターフォールと列の積み上げ、日本企業データの事情(第2・3章)
  • シグナルの種類と、Because3要素に変換する対応表。「知る」から「提案できる」まで持っていく列の組み方(第4章)
  • TAM・SAM・SOMの推計から、シグナル検知、ハンズオフの肉付け、1to1メール、事業部アサインまで、13本のユースケースと自社事例(第5章)
  • MA・SFAへの書き戻しの設計、データクレジットとアクションの見積もり、人が確認する箇所、営業の動き方の変化と内製化までの道筋(第6〜9章)

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この本を書いた人

垣内 良太
垣内 良太
ワンマーケティング株式会社、代表取締役。BtoBマーケティングの戦略設計を専門とし、独自フレームワークと豊富な支援実績をもとに再現性ある売上づくりの"型"を提供する。これまで100社超のコンサルティングを実践してきた。登山・トレランが趣味。
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CLAY Complete Playbook

シグナルを、商談に変える。GTMの7つの工程にClayを組み込む、実装の設計図

MAとSFAに足りないデータは、 外から取りに行く。
CLAY Complete Playbook 表紙

MA・SFAの外にある情報を取りに行き、判断し、書き戻す。Clayの機能と構造、シグナルとコンテキスト、13本のユースケース、実装と運用までを体系化しました。(全51ページ・図版17点)