第6章 MA・SFAのデータの限界と、営業を動かすコンテキスト ―― 「Why You Now」
ここまでの章で、顧客を一つにし、データ構造を整え、購買グループ購買グループユニット企業内部にある検討の単位。所属と行動の同一性から認定する。BtoBの購買は一人では決まらないため、リードではなくこの単位で捉える。用語集で見る →を捉える方法を述べてきた。これらが整えば、MAMAマーケティングオートメーションマーケティングの実行と管理のための業務アプリケーション。用語集で見る →とSFASFAセールスフォースオートメーション営業の実行と管理のための業務アプリケーション。用語集で見る →には質の高いデータが集まる。だが、それでも足りないものがある。本章では、MA・SFAのデータから何が分かり、何が分からないかを正面から述べる。そのうえで、営業を動かすために必要なコンテキストコンテキストその顧客が今どんな状況にあり、なぜそれを求めているのかを説明するための情報。業種や規模と違い一社ごと・一人ごとに異なり、シグナル・自社接点・購買グループを組み合わせて組み立てる。用語集で見る →と、本書の中心概念である「Why You NowWhy You Now「なぜ貴社に(Why You)」「なぜ今(Why Now)」「なぜ私たちが(Why Us)」の3つの問いへの答え。データから導かれる接触の根拠であり、営業を動かすのはリードの数やスコアではなくこの理由である。用語集で見る →」を定義する。
6-1. MA・SFAのデータで、何が分かり、何が分からないか
MAとSFAに蓄積されるデータを整理すると、次のようになる。
| 蓄積されるデータ | 分かること | 分からないこと | |
|---|---|---|---|
| MA | メールの開封・クリック、Webの閲覧、フォームの送信、ウェビナー・展示会への参加 | 誰が、いつ、自社のどの情報に反応したか | なぜ反応したのか。その人の会社で何が起きているのか |
| SFA | 商談の状態、活動の履歴、担当者の情報、受注・失注の結果 | 営業が誰と会い、何を話し、商談がどこまで進んだか | 営業が会っていない人物、会っていない期間に起きたこと |
| 企業データベース | 業種、規模、所在地、グループ関係 | その企業がどんな会社か | その企業に今、何が起きているか |
いずれも、第1章で述べた「知る」ためのデータである。誰が、どんな会社に属し、いつ、何に接触したか。事実として正確であり、第3章から第5章までの仕組みが整っていれば、これらは一人の顧客のもとに正しく集まる。それは必要である。だが、十分ではない。
6-2. 4つの限界
MA・SFAのデータには、構造的な限界が4つある。
限界① 分かるのは、自社とのやり取りと、会社の基本情報だけである。 MAで分かるのは、相手が自社のメールを開いたか、自社のWebサイトのどのページを見たか、といった自社とのやり取りである。SFAで分かるのも、自社の営業担当者が相手と会い、何を話したかである。どちらも、相手が自社と接したときの記録にとどまる。
これに企業データベースの情報を加えると、相手の会社の業種、売上や従業員数、所在地が分かる。ただし、これらは何年もほとんど変わらない、会社の基本情報である。
たとえば、ある顧客企業が先月、新しい事業部長を迎えた。来期の予算で、営業のデジタル化への投資を決めた。こうした「今、その会社で起きていること」は、自社とのやり取りの記録にも、会社の基本情報にも出てこない。MA・SFAと企業データベースだけでは、相手の「今」は分からない。
限界② 過去の接点接点タッチポイント顧客と自社の間で起きる相互作用のすべて。マーケティング接点・営業接点・カスタマーサクセス接点・パートナー接点があり、商談も接点の一つである。用語集で見る →の記録であり、顧客の変化を捉えない。 半年前に資料を請求した、3か月前に商談があった。これらは過去の事実である。その後、相手の会社で何が変わったのか。担当者が異動したのか、予算がついたのか、新しい経営方針が出たのか。MA・SFAのデータは、自社との接点がない間に起きた変化を記録しない。
限界③ 接点の外で起きている検討が見えない。 第1章で述べたとおり、買い手は営業に会う前に候補を絞り込んでいる。その検討の大半は、検索し、比較サイトを見て、AIに尋ね、社内で議論するという、売り手の接点の外で進む。MA・SFAが捉えるのは、その検討が自社の接点に触れた瞬間だけであり、検討の全体像ではない。
限界④ 営業と顧客のやり取りの多くが、そもそも記録されていない。 ここまでの3つは、記録されているデータについての限界である。4つ目は、記録すらされていないという限界である。営業担当者が打ち合わせで顧客から聞いた話、電話で知った社内の事情、メールでのやり取り。これらは顧客を理解するうえで最も大事な情報だが、多くは営業担当者のノートや記憶、メールソフトの中に残ったままで、SFAには要約すら入っていない。第2章で述べたとおり、入力が定着しないからである。これを解決する手段がAIによる自動記録であり、第7章で詳しく述べる。
6-3. 「知る」データは揃った。「理解する」には何が足りないか
第1章で、「知る」と「理解する」を分けた。知るとは事実を持つこと。理解するとは、その相手が今どんな状況にあり、なぜそれを求めているのかを説明できることである。
MA・SFAのデータは、4つの限界を差し引いても、「知る」ためには十分に揃う。だが「理解する」には届かない。理解に必要なのは、事実を結びつけて「なぜ」を説明する情報である。なぜこの時期に資料を請求したのか。なぜこの部門の人が関心を持ち始めたのか。会社の中で何が起きていて、この人はその中でどんな立場にいるのか。
この「なぜ」を説明する情報を、本書ではコンテキストと呼ぶ。MAとSFAのデータだけでは、コンテキストは得られない。だから、MAとSFAのデータだけでは、「Why You Now」は語れない。
6-4. 営業は「接触の理由」がなければ動かない
なぜコンテキストが必要なのかを、営業の側から見てみる。
MAのスコアが上がった、資料請求があった、という情報を営業に渡しても、営業はなかなか動かない。マーケティングはこれを「営業がリードをフォローしない」と捉えがちだが、営業の側には営業の理屈がある。「資料を請求した」という事実だけでは、電話をかける理由にならないのである。
営業が顧客に接触するには、理由が要る。相手の会社で何が起きていて、相手が何に困っていて、なぜ今、自分が連絡することに意味があるのか。それが分からなければ、電話をかけても「資料をご覧いただきありがとうございます。何かお困りですか」以上のことは言えない。相手にとっても、その電話に価値はない。第1章で述べたエンゲージメントエンゲージメント顧客が自社との接触に価値を感じ、関係を続けたいと思っている状態。接触の量ではなく関係の深さを表し、企業・購買グループ・パーソンの3つの単位で捉える。CRMの目的はこれを高めることにある。用語集で見る →の定義に照らせば、価値のない接触は関係を深めない。
つまり、営業を動かすのは、リードの数でもスコアの高さでもない。接触の理由である。理由があれば、営業は動く。理由がなければ、動かないし、動くべきでもない。コンテキストとは、この接触の理由を説明するための情報である。
6-5. コンテキストとは何か
本書では、コンテキストを次のように定義する。
コンテキストとは、その顧客が今どんな状況にあり、なぜそれを求めているのかを説明するための情報である。
業種や規模のように、多くの企業に同じ形で当てはまる情報とは違い、コンテキストは一社ごと、一人ごとに異なる。
コンテキストは、一つの情報ではない。複数の情報が結びついて初めて、状況の説明になる。たとえば「ある製造業の情報システム部の田中氏が、MA導入の資料を請求した」という事実だけでは、コンテキストにならない。これに「その会社は先月、中期経営計画でデジタルマーケティングの強化を掲げた」「田中氏は今年度から情報システム部に異動し、営業支援システムの担当になった」「同じ会社のマーケティング部の佐藤氏が、先週ウェビナーに参加していた」という情報が結びつくと、状況が説明できるようになる。この会社は経営方針としてデジタルマーケティングに投資を決め、その実行を担う体制が整い始め、情報システム部とマーケティング部の両方が動き出している。だから田中氏は資料を請求した。これがコンテキストである。
コンテキストが組み立てられると、営業は「なぜ今、田中氏に連絡するのか」を説明できる。そして、その連絡で何を話すべきかも分かる。
6-6. シグナルとは、企業にとっての変化点である
コンテキストのもとになる情報のうち、最も重要なのがシグナルシグナル顧客企業に起きた変化を示す情報。経営方針・組織・キーパーソン・採用・投資と業績・事業・導入ツールと体制・外部環境の変化があり、多くは公開されている情報から得られる。用語集で見る →である。
シグナルとは、顧客企業に起きた変化を示す情報である。 変化には、次のようなものがある。
- 経営方針の変化:中期経営計画の発表、新しい経営戦略の公表、事業ポートフォリオの見直し
- 組織の変化:組織改編、部門の新設、部門の統廃合
- キーパーソンの変化:役員や部門長の異動・着任、取引先の窓口担当者の異動、既存顧客の担当者の転職
- 採用の変化:特定の職種の求人、募集人数の増加、新しい部門での募集。募集文に書かれた業務内容や使用ツールからは、その会社が取り組もうとしていることが読み取れる
- 投資・業績の変化:決算説明資料に記された投資方針、設備投資や研究開発の計画、増収・減益などの業績の変化、資金調達や上場
- 事業の変化:新製品や新サービスの発表、新しい市場や地域への進出、M&A、拠点の開設や閉鎖
- 導入ツール・体制の変化:新しいツールやシステムの導入、パートナー企業の変更
- 外部環境の変化:法改正や制度の変更への対応、業界の規制、補助金。業界単位で起き、その業界の企業に同じ時期に同じ課題が生まれる
これらに共通しているのは、いずれも企業にとっての変化点だということである。変化が起きるとき、企業の中では新しい課題が生まれ、新しい予算が動き、新しい担当者が配置される。それは、その企業が何かを必要とし始めた兆しである。
シグナルの多くは、公開されている情報から得られる。決算説明資料、プレスリリース、求人情報、役員人事の発表、Webサイトの更新、官公庁の発表。これらは自社の接点の外にあり、MA・SFAには入ってこない。だが、公開されている。限界①から③を補う情報は、公開されている情報の中に既にある。
6-7. 例:中期経営計画でデジタルマーケティングに言及し始めた企業
一つの例で考える。
6-5で例に挙げた製造業(以下、同社)が、新しい中期経営計画を発表した。その中で「デジタルマーケティングの強化による新規顧客の開拓」が、重点施策の一つとして初めて記された。
これは、MAやSFAを提供する企業、あるいはマーケティング支援を行う企業にとって、明確なシグナルである。同社の経営層が、デジタルマーケティングを投資対象として決めた。今後、担当部門が設置されるか、既存の部門に予算が付く。担当者はツールや支援会社を探し始める。数か月以内に、同社の誰かが情報収集を始める可能性が高い。
このシグナルを捉えた企業は、同社の誰かが自社のWebサイトに来る前に、同社に対する働きかけを設計できる。同社のマーケティング部門と情報システム部門の責任者を調べ、購買グループの候補を仮に置き、中期経営計画の内容に即した提案の論点を用意する。そして、同社から資料請求があった時点で、「同社が中期経営計画でデジタルマーケティングの強化を掲げたこと」を踏まえた対応ができる。
捉えていない企業は、同社からの資料請求を、他の数百件の資料請求と同じように扱う。スコアが閾値を超えるまで待ち、超えたら「資料をご覧いただきありがとうございます」と電話をかける。
両者の違いは、営業の能力ではない。コンテキストがあるかないかである。
6-8. シグナルを構造化する
シグナルは、そのままでは使えない。「ある会社が中期経営計画を発表した」という情報は、ニュースであってデータではない。CRMCRMCustomer Relationship Management顧客との関係と取引履歴を管理する仕組み。GTMの4レイヤーでは、SFA・MAと並ぶ業務アプリケーション層に位置づけられる。用語集で見る →に入れ、営業とマーケティングが使える形にするには、構造化が要る。
一つのシグナルについて、次の項目を持たせる。
- 種別:経営方針、組織、キーパーソン、採用、投資・業績、事業、導入ツール・体制、外部環境のどれにあたるか
- 日付:いつ起きた変化か。シグナルには鮮度があり、古くなれば価値が下がる
- 対象:どの企業の、どの部門に関わる変化か。企業だけでなく、可能であれば部門まで
- 根拠:何をもとにそのシグナルを捉えたか。出典のURL、資料名、該当箇所
- 自社の提供価値との関係:その変化が、自社の何と結びつくか。どの製品やサービスが、その変化にどう応えられるか
最後の項目が、最も重要である。同じ「中期経営計画でデジタルマーケティングを掲げた」というシグナルでも、MAを提供する企業にとってはMA導入の機会であり、コンテンツ制作を行う企業にとっては制作案件の機会であり、無関係な業種の企業にとっては何の意味もない。シグナルは、自社の提供価値と結びついて初めて、自社にとってのシグナルになる。この結びつけを構造化の段階で行っておくことで、後の工程で「このシグナルは自社に関係あるか」を毎回考える必要がなくなる。
6-9. シグナル、自社接点、購買グループの3つを組み合わせる
コンテキストは、シグナルだけでは組み立てられない。シグナルに、自社接点のデータと、購買グループの情報を組み合わせる。
シグナルが示すのは、その企業に何が起きているかである。 自社接点が示すのは、その企業と自社の間にこれまで何があったかである。 購買グループが示すのは、その企業の誰が、どんな役割で関わっているかである。
3つを組み合わせると、状況の説明ができる。同社が中期経営計画でデジタルマーケティングを掲げた(シグナル)。同社のマーケティング部の佐藤氏は二年前に自社のセミナーに参加しており、情報システム部の田中氏は先週資料を請求した(自社接点)。佐藤氏は現在マーケティング部の課長であり、田中氏は今年度から営業支援システムの担当になった(購買グループ)。この3つが揃うと、「同社では経営方針を受けてマーケティング部と情報システム部が動き始めており、佐藤氏が旗振り役旗振り役社内をどう説得するかを考え、検討を推進する人。着火役に材料を集めさせ、自身も調べ、上に上げていく。探しているのは「社内説得の材料」。用語集で見る →、田中氏が門番門番リスクはないか、要件を満たすかを審査する人。情報システム部門・法務・購買、あるいは現場の専門家として、比較情報やリスク情報を求める。用語集で見る →の可能性が高い。金庫番金庫番投資に見合うかを判断し、予算を握る人。決裁者本人のことも、その右腕として判断材料を精査する人のこともある。関心は投資対効果に集中する。用語集で見る →はまだ見えていない」という説明になる。
組み合わせる作業は、第5章で述べた購買グループの発掘と表裏一体である。シグナルが企業の変化を示し、自社接点が既知の人物を示し、その2つから、まだ見えていない関与者を探す方向が定まる。同社の場合、金庫番の候補は中期経営計画を推進する立場の役員であり、探すべき相手は決まっている。
6-10. Why You Nowを導く:なぜ貴社に、なぜ今、なぜ私たちか
コンテキストが組み立てられると、接触の理由が導ける。本書ではこれを「Why You Now」と呼ぶ。
Why You Nowとは、Why You(なぜ貴社に)、Why Now(なぜ今)、Why Us(なぜ私たちが)の3つの問いへの答えである。
- Why You(なぜ貴社に):その企業に、自社が応えられる課題やニーズがあること。シグナルと購買グループから導かれる
- Why Now(なぜ今):その課題が、今まさに動いていること。シグナルの日付と、自社接点の変化から導かれる
- Why Us(なぜ私たちが):その課題に対して、自社が解決や提案を提供できること。シグナルと自社の提供価値の結びつきから導かれる
3つの問いに答えられる接触は、相手にとって理由のある接触になる。「御社が中期経営計画でデジタルマーケティングの強化を掲げられたと拝見しました。同様の方針を掲げた製造業の企業様で、当社が営業支援システムとマーケティング基盤の統合をご支援した事例があり、田中様のお立場でご関心があるのではないかと思いご連絡しました」。この一文には、なぜ貴社に、なぜ今、なぜ私たちがの3つが含まれている。
Why You Nowは、営業の話法ではない。データから導かれる、接触の根拠である。CRMに集まったコンテキストから組み立てられ、営業に渡されるものである。
6-11. AIがコンテキストを組み立て、人が磨く
ここまで述べたことを、人手で行うのは難しい。数百社、数千社の顧客について、公開情報を追い、シグナルを構造化し、自社接点と購買グループを組み合わせ、Why You Nowを導く。一人の営業が担当する数十社についてすら、毎日行うことはできない。
AIは、この作業に向いている。決算説明資料やプレスリリースを読み、変化に該当する箇所を抽出し、種別と日付と対象を付けて構造化する。自社の提供価値との関係を判定する。CRMの自社接点と購買グループの情報を参照し、状況の説明文を生成する。Why You Nowの候補を、営業が使える文面として出力する。これらはいずれも、AIが既に実用的な精度で行える作業である。
ただし、AIが出すのは候補である。同社の中期経営計画の読み取りが正しいか、佐藤氏が本当に旗振り役か、提示された事例が本当に同社に響くか。これらの判断は、営業が行う。AIが組み立てたコンテキストを、営業が確認し、自分の知っている事情を加え、言葉を磨く。AIが組み立て、人が磨く。この分担によって、コンテキストとWhy You Nowは、一部の優れた営業の技量に頼る状態から、組織のすべての営業が使える仕組みに変わる。
6-12. 役割によって、届ける情報を変える
Why You Nowは、購買グループの役割ごとに言い分ける必要がある。
白書は提言④として、役割別に出す情報を変えることを挙げている。意思決定者に対しては会社の信頼性、費用、アフターサービス、契約条件。意思影響者に対しては製品の品質、提案内容、導入実績、技術的な裏付け。同じ企業の同じ検討について、届けるべき情報は役割によって異なる。
これを4役割に当てはめれば、着火役着火役現状への問題意識を持ち、検討の起点となる人。Webで調べ、資料をダウンロードし、ウェビナーに参加する。売り手のデータベースに最初に現れるシグナルの多くは、この役割が発している。用語集で見る →には課題を言語化し社内で提起するための資料を、旗振り役には社内を説得し稟議を通すための根拠を、門番には仕様や条件が基準を満たすことの証明を、金庫番には投資対効果と自社の信頼性を届ける。Why You Nowの「なぜ貴社に」は共通でも、「なぜ私たちが」の中身は役割ごとに違う。
したがって、コンテキストからWhy You Nowを導く際には、誰に向けたものかを先に決める。購買グループの中の、どの役割の、誰に届けるのか。それによって、同じコンテキストから異なるWhy You Nowが導かれる。
6-13. Why You Nowを営業とマーケティングで共有する
最後に、Why You Nowは営業だけのものではない。
マーケティングがメールを送るときにも、ウェビナーの案内を出すときにも、Why You Nowは要る。「なぜこの企業に、なぜ今、この内容を送るのか」が説明できるメールと、セグメントに一斉配信されるメールでは、相手にとっての価値が違う。第8章で述べる1to1のパーソナライズは、Why You Nowを起点にして初めて成立する。
そして、営業とマーケティングが同じコンテキストと同じWhy You Nowを見ていれば、マーケティングのメールと営業の電話は、同じ理由に基づいた一続きの働きかけになる。第2章で述べた「一つの会社が複数の顔で、互いに何をしているかも知らずに話しかけてくる」状態は、ここで解消される。
コンテキストとWhy You Nowは、CRMの上に置く。営業も、マーケティングも、インサイドセールスインサイドセールス訪問せずに電話やメールで見込み客と接点を持つ営業機能。聞き取りで得た情報は、フォームからは分からない購買グループの手がかりになる。用語集で見る →も、カスタマーサクセスも、同じものを見る。それが、AI時代のCRMが顧客について持つべき情報である。
次章では、コンテキストのもとになる4つのデータソースをどう活用し、営業接点をAIでどう記録するかを述べる。
本章の要点
- MA・SFAのデータは「知る」ためのデータ。誰が、いつ、何に接触したかは分かるが、なぜかは分からない
- 限界は4つ。分かるのは自社とのやり取りと会社の基本情報だけ、過去の記録であり変化を捉えない、接点の外の検討が見えない、そして営業と顧客のやり取りの多くがそもそも記録されていない
- 営業を動かすのはリードの数でもスコアでもなく、接触の理由である。理由がなければ動かないし、動くべきでもない
- コンテキストとは、その顧客が今どんな状況にあり、なぜそれを求めているのかを説明するための情報。一社ごと、一人ごとに異なる
- シグナルとは、顧客企業に起きた変化を示す情報。経営方針・組織・キーパーソン・採用・投資と業績・事業・導入ツールと体制・外部環境の8種類があり、多くは公開されている情報から得られる
- シグナルは種別・日付・対象・根拠・自社の提供価値との関係で構造化し、自社接点と購買グループを組み合わせてコンテキストにする
- Why You Nowとは「なぜ貴社に、なぜ今、なぜ私たちが」への答え。データから導かれる接触の根拠である
- AIがコンテキストを組み立て、人が磨く。役割ごとに言い分け、営業とマーケティングで共有する

