ABM COMPLETE 第9章 / 全11章 読了 約7分 / 3,912字 著者:ワンマーケティング株式会社 SHARE

第9章 運用体制 ―― 購買グループを、マーケティングと営業の共通言語にする

9-1. 単位を変えると、マーケティングと営業は初めて同じものを見る

第1章の症状③を思い出してほしい。マーケティングが渡す単位は個人のリード、営業が見る単位は組織とロール。形が合わないから、渡しても動かない。

購買グループは、この不一致を解消する。マーケティングが「A社・情報システム部・◯◯事業所の購買グループで、着火役が動き、旗振り役には接点がなく、門番・金庫番は未特定」と渡すとき、その情報は営業がもともと見ていた単位――組織とロール――で書かれている。マーケティングが営業の言葉で語り始めたのである。

逆も起きる。営業が面談で「実は現場部門も絡んでいて、そちらの課長が実質的な旗振り役だ」と知ったとき、その情報は「役割」という、マーケティングがセグメントに使える単位で書かれている。営業がマーケティングの使える形で情報を戻し始める。

単位を変えると、両者は初めて同じものを見る。これまでマーケティングと営業の連携を阻んできたのは、意欲の欠如でも、評価制度の違いでもなく、見ている単位が違ったことである。同じデータベースの同じレコードを、同じ単位で見る。これが購買グループを「共通言語」と呼ぶ理由である。

ただし、単位を変えただけで体制が自動的に整うわけではない。誰が何を入れ、誰が何を聞き、誰が何を確認するのかを決めなければ、6階層のデータベース(第5章)は数か月で古くなる。本章では、購買グループを回す体制を、役割分担・レビューの場・立ち上げの入口の3点で示す。

9-2. 役割分担 ―― 誰が何を入れ、誰が何を聞くか

購買グループのデータは、第5章で述べた3つの経路――人が入れる、AIが推察する、人を経由して聞き取る――から集まる。この経路のそれぞれに、責任を持つ機能を割り当てる。

機能 購買グループにおける責任 具体的な担当範囲
マーケティング 「見える化」の設計と、空中戦 属性項目(部門・事業所・役職)の取得設計、一意化の入口統制、役割×フェーズのマトリクスとコンテンツ、グループ単位のシグナル検知、営業が届かない役割への面的アプローチ
インサイドセールス 「聞き取り」による確認と更新 推定された役割・部署・事業所の対話による確認、門番・金庫番の存在の聞き出し、異動・組織変更の把握、フェーズ判断の補助。聞いた情報をデータベースに戻す
営業 「商談」と購買グループの紐付け、地上戦 商談への関与者の登録と役割の確定、面談で得た関与者情報のSFAへの反映、ホワイトスペースのうち直接接触で埋めるセルの担当
CoE(推進組織) 定義と品質の管理 購買グループの単位・役割・フェーズの定義維持、AI判定ルールの管理、データ品質の監視、部門間SLAの運用

この分担の要点は3つある。

第一に、マーケティングの仕事が変わる。リードを取り、ホットなリードを渡す仕事から、購買グループが見える構造を設計し、営業が届かない役割に届く仕事へ。数えるものが、リード数からグループの可視化率と役割の充足率へ移る。

第二に、インサイドセールスの位置づけが変わる。アポイント獲得の部隊ではなく、データベースの鮮度と精度を支える情報収集の要になる。AIが推定した役割を人の対話で確認し、名刺にもフォームにも現れない情報――プロジェクトの存在、真の旗振り役、決裁ラインの構造――を聞き出す。第8章で述べた鮮度維持の「聞き取った情報をデータベースに集約する」経路は、この機能が担う。

第三に、営業には「戻す」責任がある。渡されたグループにアプローチした結果を、役割の確定・修正と新たな関与者の情報としてSFAに戻す。これは営業への負荷の追加ではなく、営業自身が次の攻め筋を組むための情報の蓄積である。自分が会った門番を登録しておけば、次に同じアカウントの別の購買グループを攻めるとき、その門番の存在は初めから見えている。

CoEについては『Campaign Management Playbook』で詳述した。購買グループの文脈では、定義の維持が特に重要になる。「旗振り役とは何か」「P5の判断基準は何か」が部門ごとに解釈されれば、共通言語は数か月で方言に分かれる。定義を一か所で管理し、AIの判定ルールに反映し、判定精度を監視する機能が、どこかに必要である。

9-3. レビューの場 ―― グループ単位のパイプラインレビュー

体制を機能させる装置は、定例のレビューである。ここで重要なのは、何を単位にレビューするかである。

多くの企業のパイプラインレビューは、商談単位か、アカウント単位で行われている。「A社の案件はどうなっているか」。この問いには、担当営業が自分の見えている範囲で答える。「窓口の田中さんとは話が進んでいます」。第3章の数字を思い出せば、この回答には残り17人が含まれていない。

購買グループ単位のレビューは、問いを変える。「A社・情報システム部の購買グループで、4役割のうち誰に会えていて、誰に会えていないか」「旗振り役はどのフェーズにいるか」「門番・金庫番は特定されたか」。回答は、データベースの6階層をそのまま読めばよい。担当営業の記憶ではなく、レコードが答える。

このレビューで見る指標は、次のようなものになる。

  • グループの可視化率:ターゲットアカウントのうち、購買グループの単位で切り分けられているアカウントの比率
  • 役割の充足率:定義済みグループのうち、4役割すべてに接点があるグループの比率。裏返せば「役割未特定」の残数
  • フェーズの分布:グループがどのフェーズに滞留しているか。P3に多く、P5が空なら、背中を押す施策が足りない
  • ホワイトスペースの充填:ホワイトスペースマップ(第7章)の塗られていないセルが、月次でどれだけ減ったか。空中戦と地上戦のそれぞれの貢献

「役割未特定の残数」をKPIに置くことには、はっきりした意図がある。第5章で述べた通り、役割の空白は欠損ではなく「まだ会えていない人」である。残数を減らすことは、そのまま、営業とマーケティングが購買グループの中に入り込んでいくことを意味する。リード数やMQL数と異なり、この指標はマーケティングだけで動かせず、営業だけでも動かせない。両者が同じ数字を追わざるを得ない構造が、ここにできる。

レビューの頻度は、商談サイクルによる。半年以上の検討が過半を占める高価格帯の商材であれば、月次で十分である。重要なのは頻度ではなく、マーケティング・インサイドセールス・営業が同席し、同じ画面を見ることである。

9-4. 立ち上げの入口 ―― 営業とマーケティングが、同じ紙に書く

最後に、この体制をどこから立ち上げるかを述べる。

購買グループの設計を、マーケティング部門だけで進めることは勧めない。第4章の役割定義、第6章の価値設計、第7章のフェーズ定義――いずれも、顧客に直接会っている営業の知見なしには、机上の一般論になる。逆に、営業だけで進めれば、データベースの構造には落ちない。

当社が支援の入口として用いているのは、営業とマーケティングの混成チームによるワークショップである。実際のターゲットアカウント数社を題材に、90分程度で、次の2つを持ち帰る。

1つは、役割別のバリュープロポジションシート。対象アカウントの購買グループについて、4役割のジョブ・ペイン・ゲインを、営業が面談で聞いた言葉で書く。マーケティングはそれを、コンテンツと施策に翻訳できる形に整える。第6章で「初稿はAIが書き、人が磨く」と述べた磨く工程を、両者が同じ紙の上で行う。

もう1つは、ホワイトスペースマップ。縦に対象アカウントの購買グループ、横に4役割。営業が「会えている」「会えていない」を塗り、マーケティングが接点データで補う。塗り終わった瞬間に、営業は自分がいかに窓口1名しか見ていなかったかを、マーケティングは自分の施策がいかにホワイトスペースに届いていなかったかを、同じ地図の上で知る。

この体験が、体制の起点になる。「購買グループ」「旗振り役」「P5」という言葉が、研修で覚えた用語ではなく、自分たちが実際に書いた紙の上の言葉になる。共通言語は、定義を配布して生まれるものではなく、同じものを一緒に書くことで生まれる。

そして、ここで書いたシートとマップの中身は、そのままStep1〜4のデータ設計の要件になる。「部門の正式名称が取れていないから、このグループが切れない」「役職が『その他』になっているから、この人の役割が推定できない」――紙の上で見つかった不足が、データベースの項目設計に翻訳される。ワークショップは、体制を立ち上げる入口であると同時に、7ステップの最初の要件定義でもある。

これで、7ステップと、それを回す体制が揃った。終章では、自社の現在地を測る問いと、最初の90日で行うことを示す。

本章の要点

  • マーケティングと営業の連携を阻んできたのは意欲や評価制度ではなく、見ている単位の違い。購買グループという単位で同じレコードを見ることが「共通言語」の意味である
  • 役割分担:マーケティングは見える化の設計と空中戦、インサイドセールスは聞き取りによる確認と更新、営業は商談との紐付けと地上戦と「戻す」責任、CoEは定義と品質の管理
  • レビューはアカウント単位ではなくグループ単位で。「役割未特定の残数」をKPIに置けば、マーケティングと営業が同じ数字を追わざるを得ない構造ができる
  • 立ち上げの入口は、営業・マーケティング混成のワークショップ。役割別VPCシートとホワイトスペースマップを同じ紙に書くことで共通言語が生まれ、その不足がStep1〜4のデータ設計要件になる

目次に戻る

次の一手は、ABM Complete Playbookを一気に読む

本書は全11章です。この続きは第10章に進むか、全章をまとめて一気に読みたい方はPDF版をご利用ください。図版を含む全53ページを1ファイルにまとめています。

WHITE PAPER PDF版

アカウントは選んだ。その先を、誰も設計していない。

ABMでターゲットアカウントを選定したものの、その先で止まる——「誰に、何を、いつ届けるか」が設計されていないためです。BtoBの購買は一人では決まらず、高価格帯では平均18.3人が関与します。本書は、アカウントの内側にいる「購買グループ」を定義し、可視化し、役割ごとに届け分けるまでを7ステップで解説した全53ページ・図版13点の実務書です。

  • アカウント選定の先で止まる理由。ターゲットは決めたのに成果が出ない状態を、管理単位ではなく「誰に届けるか」の設計欠落として捉え直す(第1章)
  • 購買グループを定義する3つの単位(企業・部門・案件)と4つの役割(着火役・旗振り役・門番・金庫番)。ABMの延長線上に何を足すのかを構造で示す(第2・4章)
  • 購買グループが見えるデータベースの作り方(Step1〜4)。ターゲットアカウントマトリクス9象限、ホワイトスペースの特定まで(第5章)
  • 役割別バリュープロポジション(Step5)と、購買心理変容8フェーズに沿った施策設計・営業連携(Step6)。いつ・誰に・何を出すかの対応表(第6・7章)
  • AIによる判定・分類とデータアーキテクチャ(Step7)、CoEによる運用体制。可視化率・充足率・フェーズ分布・ホワイトスペース充填の4指標で回し続ける(第8・9章)

フォームにご入力いただくと、全章をまとめたPDF版のダウンロードリンクをメールでお送りします。

全53ページをダウンロード 資料一覧へ

この記事を書いた人

ワンマーケティング編集部
BtoBマーケティングの戦略設計から実行支援までを手がけるチーム。MA運用・リード獲得の現場知を発信しています。
CONTACT

お問い合わせ

課題に合わせた進め方をご提案します。お気軽にご相談ください。

WHITE PAPER PDF版

GTM Engineering Playbook

分断された収益プロセスを、データと技術で再設計する指南書

戦略はある。現場も動いている。 欠けているのは、その“間”だ。
GTM Engineering Playbook 表紙

ツール導入で終わらせない、収益プロセスの再設計図。GTM設計の5ステップと、それを支える4つのレイヤーを、日本企業の前提に合わせて体系化しました。(全39ページ・図版13点)