ABM COMPLETE 第3章 / 全11章 読了 約6分 / 3,380字 著者:ワンマーケティング株式会社 SHARE

第3章 なぜ購買グループなのか ―― 数字で見る、買い手の実態

3-1. 購買は「グループの合意」で進む

前章まで、売り手側の視点からABMの停滞を論じてきた。本章では視点を買い手側に移す。なぜ点ではなく面で見なければならないのか――その根拠は、買い手が実際にどう買っているかにある。

当社は2025年、全国で仕入・購買・契約に関わるビジネスパーソン600名を対象に、購買プロセスの実態を調査した(BtoB購買プロセス白書2025)。その中で、本書の主題に最も直接関わるのが、購買に関与する人数である。

1件の購買に関与する人数は、取引金額300万円未満の低価格帯で平均5.6人、300万〜1,000万円未満の中価格帯で14.4人、1,000万円以上の高価格帯では平均18.3人に達する。

価格帯別の購買関与人数
図5:取引金額が上がるほど、買い手は「群れ」になる。1,000万円以上の案件では平均18.3人が意思決定に関与する出典:ワンマーケティング『BtoB購買プロセス白書2025』(n=600)。中央値は低価格帯3人・高価格帯5人

18人という数字に驚く読者は多い。だが、自社の顧客で実際に進んだ1,000万円以上の案件を思い返してほしい。現場の担当者、その上司、隣接部門の責任者、情報システムや法務、購買部門、決裁ラインの役員――関与者を数え上げれば、この規模になることは珍しくない。なお中央値は低価格帯3人・高価格帯5人であり、多くの案件は数人で進む。しかし平均を押し上げているのは、まさにABMが狙うような大型案件であり、狙う金額が大きいほど、関与者は縦のライン(決裁階層)にも横のライン(部門横断)にも広がっていく。

購買が1人で決まらないのは、日本に限った話ではない。Gartnerが2024年にBtoBバイヤー632名を対象に行った調査では、購買グループは最大4つの職能にまたがり、5人から16人の幅に分布するとされる。当社調査の高価格帯18.3人は、この海外の分布の上限をさらに上回る。稟議による多層の決裁経路や、合意形成を重んじる組織文化が、関与者の数をいっそう押し上げていると考えられる。日本でBtoBの購買を捉えるには、海外の実務論以上に「面」で見る必然性が強い。

1人では判断できない。だから、1人を見ていても商談は進まない。この単純な事実が、購買グループで見なければならない第一の根拠である。

3-2. 営業が会う前に、大半は進んでいる

第二の根拠は、検討の前倒し化である。

同じ白書で、営業との面談に立ち会う購買担当者(n=96)に、初回面談時点での検討状況を聞いた。「ほぼ決定していた」が29%、「数社に絞り込んでいた」が56%。合わせて85%が、営業と初めて会う時点で、すでに候補を絞り込んでいる。2020年に実施した前回調査では79%であり、前倒しはさらに進んだ。

初回面談時点で85%が候補を絞り込み済み
図6:営業が初めて会う時点で、85%の買い手は候補を絞り込んでいる。検討プロセスの大半は、営業に会う前に進んでいる出典:ワンマーケティング『BtoB購買プロセス白書2025』(購買先面談を担当業務とする回答者 n=96)。2020年の前回調査では79%

前倒しの背景には、情報源の変化がある。買い手が現在の取引先を初めて知ったきっかけは、検索エンジンが28.7%で突出し、AI検索・生成AIも8.8%に達した。一方で「以前より使わなくなった情報源」はどの項目も最大8.3%にとどまる。情報源は増える一方で、減っていない。買い手は営業に会う前に、検索し、AIに尋ね、比較サイトを見、資料を読み、社内で議論している。

そして検討期間は長い。高価格帯の取引の54%は、検討開始から契約まで半年以上を要している。半年以上にわたる検討の大半が、営業の見えないところで、十数人の関与者によって進められている――これが買い手側の実態である。

この実態に、点で見る運用は追いつけない。窓口となる1人がMQLとして浮上した時点で、その企業の検討はすでに相当進んでおり、他の関与者は営業の知らないところで情報を集め、意見を形成している。85%が絞り込み済みで会いに来る買い手に対して、面談の場で初めて他の関与者の存在を知るのでは遅い。

3-3. MQLとして見えているのは、18人のうち1人

ここで、第2章のMQLの議論に数字を重ねる。

高価格帯の案件に18人が関与しているとき、MQLとして売り手側のデータベースに浮上しているのは、多くの場合1人である。資料をダウンロードした人、ウェビナーに参加した人――何らかの行動を起こし、記録に残った1人だ。残りの17人は、売り手には見えていない。

見えていないとは、記録がないという意味ではない。名刺交換をした関与者や、過去のセミナーに参加した関与者が、データベースの中に別々に存在していることは多い。だが、その人たちが「同じ検討に関わっている」という関係が見えていない。だから、1人がMQLになっても、隣の部門の責任者が同じテーマで情報収集していることに気づかず、決裁ラインの役員が懸念を持っていることも分からない。

『Campaign Management Playbook』では、商談に窓口1名しか紐づいていない状態では、残り17人分の接点が帰属計算から消える、と述べた。同じことが、商談化の前段階でも起きている。17人分の関心・懸念・判断材料が、視界の外で形成されていく。点で見る限り、売り手はこの17人に価値を届ける機会を、構造的に失っている。

3-4. 関与者は一枚岩ではない

第三の根拠は、18人の中身である。

面で見ればよい、というだけなら話は簡単だ。アカウントに属する全員に同じメールを送り、同じ資料を届ければよいことになる。だが実際には、18人はそれぞれに思惑・課題・関心事を持っている。

現場の担当者は、日々の業務の非効率をどうにかしたいと考えている。その上司は、来期の目標に向けて何を経営に提案すべきかを考えている。情報システム部門は、既存環境との整合性とセキュリティを確認したい。購買部門は、比較の妥当性と価格を見ている。役員は、投資対効果と、失敗したときの責任の所在を気にしている。同じ案件を見ていても、見ている場所も、動く理由も、止まる理由も違う。

同じ白書でも、提案評価で1番目に重視する項目は「品質」が26.5%、「会社の信頼性」が24.7%と、僅差で分かれている。何を決め手とするかは一様ではなく、役割によって、フェーズによって異なる。全員に同じものを届ける運用は、面で見ているようでいて、誰にも刺さらない。

したがって、点から面へ切り替えるだけでは足りない。面の中を、役割で分ける必要がある。18人をそのまま扱えば破綻するから、扱える数の役割に圧縮する。そして役割ごとに、届ける価値とタイミングを変える。これが次章以降の主題である。

3-5. 本章のまとめ ―― 数字が示す、3つの必然

本章の数字を、3つの必然としてまとめる。

第一に、購買はグループの合意で進む。1,000万円以上の案件では平均18.3人が関与し、1人では判断できない。だから点ではなく面で見る。

第二に、検討は営業に会う前に進む。85%が絞り込み済みで面談に現れ、検討期間の半分以上は半年を超える。だから、面談の場ではなく、データの上で関与者を捉える。

第三に、関与者は一枚岩ではない。役割によって思惑も決め手も異なる。だから、面の中を役割で分け、届ける価値とタイミングを変える。

データはあった。しかし、購買グループとしては見えていなかった。商談が増えない理由は、ここにある。次章では、この購買グループを定義する――1社に1つではないグループを3つの単位で切り分け、18人を4つの役割で捉える。

本章の要点

  • 1件の購買に関与する人数は、低価格帯5.6人・中価格帯14.4人・高価格帯18.3人(BtoB購買プロセス白書2025)。金額が上がるほど買い手は「群れ」になる
  • 営業と初めて会う時点で85%の買い手が候補を絞り込み済み。高価格帯の54%は検討に半年以上を要し、その大半は営業の見えないところで進む
  • MQLとして見えているのは18人のうち1人。残り17人は、記録があっても「同じ検討に関わっている」という関係が見えていない
  • 関与者は一枚岩ではない。面で見るだけでは足りず、面の中を役割で分ける必要がある

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アカウントは選んだ。その先を、誰も設計していない。

ABMでターゲットアカウントを選定したものの、その先で止まる——「誰に、何を、いつ届けるか」が設計されていないためです。BtoBの購買は一人では決まらず、高価格帯では平均18.3人が関与します。本書は、アカウントの内側にいる「購買グループ」を定義し、可視化し、役割ごとに届け分けるまでを7ステップで解説した全53ページ・図版13点の実務書です。

  • アカウント選定の先で止まる理由。ターゲットは決めたのに成果が出ない状態を、管理単位ではなく「誰に届けるか」の設計欠落として捉え直す(第1章)
  • 購買グループを定義する3つの単位(企業・部門・案件)と4つの役割(着火役・旗振り役・門番・金庫番)。ABMの延長線上に何を足すのかを構造で示す(第2・4章)
  • 購買グループが見えるデータベースの作り方(Step1〜4)。ターゲットアカウントマトリクス9象限、ホワイトスペースの特定まで(第5章)
  • 役割別バリュープロポジション(Step5)と、購買心理変容8フェーズに沿った施策設計・営業連携(Step6)。いつ・誰に・何を出すかの対応表(第6・7章)
  • AIによる判定・分類とデータアーキテクチャ(Step7)、CoEによる運用体制。可視化率・充足率・フェーズ分布・ホワイトスペース充填の4指標で回し続ける(第8・9章)

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この記事を書いた人

ワンマーケティング編集部
BtoBマーケティングの戦略設計から実行支援までを手がけるチーム。MA運用・リード獲得の現場知を発信しています。
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分断された収益プロセスを、データと技術で再設計する指南書

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