CAMPAIGN MANAGEMENT 第1章 / 全11章 読了 約7分 / 4,165字 著者:ワンマーケティング株式会社 SHARE

第1章 「そのキャンペーン、売上に効いたのか」

1-1. 果たして、その展示会は売上に寄与しているのか

年に数回、数百万円から時に数千万円を投じる展示会。毎月のように開催しているウェビナー。定期的に制作するホワイトペーパーと、回り続ける広告。

これらの施策の予算承認の場で、こう問われたとしよう。

「昨年のあの展示会は、いくらの売上につながったのか」

即答できる企業は、ほとんどない。返ってくるのは「名刺は800枚獲得しました」「アンケート回答は200件でした」という獲得数の報告か、「展示会は数字だけでは測れない価値がある」という定性の弁明である。どちらも嘘ではない。しかし、問いには答えていない。

ウェビナーも同じだ。申込数と視聴率は毎回レポートされる。だが「このウェビナーシリーズから、この1年でいくつの商談が生まれ、いくら受注したのか」と問われた瞬間、数字は途切れる。

そして答えられないまま、翌年も同じ展示会に出展し、来月も同じテーマでウェビナーを開催する。前年踏襲という名の、検証なき再投資である。

問題の深刻さは、投資環境の変化によって増している。当社の調査(BtoB購買プロセス白書2025、バイヤー600名調査)では、買い手が現在の取引先を初めて知ったきっかけとして、展示会は6.8%にとどまり、すでにAI検索・生成AI(8.8%)に抜かれていた。買い手の情報収集経路が構造的に変わりつつある今、「例年通り」の投資配分を続けることのリスクは、かつてなく大きい。続けるにせよ、やめるにせよ、配分を変えるにせよ――その判断には、施策と売上を接続した事実が要る。

1-2. 世界も、同じ問いに答えられていない

「うちのマーケティングが遅れているからだ」と考えるのは早い。この問いは、マーケティング先進国とされる欧米でも、いまだ大半の企業が答えられていない問いである。

HubSpotの調査(State of Marketing Report 2024)によれば、78%のマーケティングチームが、いまだ「単一の接点」だけに成果を帰属させるシングルタッチ計測を主要モデルとして使っている。買い手が長い検討期間の中で多数の接点を経由する現実に対して、計測の側は最初か最後の一点しか見ていない――このずれは、マーケティング先進国でも解消されていない。

イベント投資に絞れば、実態はさらに鮮明である。B2Bマーケティング・イベント責任者120名超を対象とした調査(Vendelux「2026 B2B Events Survey」)では、98%が経営層に対するイベント投資の正当化に苦慮し、86%がROIをイベントに正確に帰属できないと回答した。

一方で、変化も始まっている。単一接点の計測から、複数の接点に貢献を配分する計測へ移行する動きが広がり、移行した企業からは「従来の計測が刈り取り直前のチャネルを一貫して過大評価し、需要を生んでいた上流の投資を過小評価していた」ことに気づいたという報告が相次いでいる。計測の構造を変えると、最適だと信じていた予算配分の偏りが見えてくる――この経験則は、欧米の実務で繰り返し確認されつつある。

つまりこの問いは、答えられないままでも致命傷にならない問いではない。答えた企業から順に、マーケティング投資の効率で差がつき始めている問いなのである。

1-3. 「効いていない」のではない。「判定できない」のだ

ここで、本書の立場を先に明確にしておきたい。本書は「展示会は効かないからやめよ」と主張する本ではない。多くの場合、実態はその逆である。

前出のVendelux調査に、この実態を端的に示す数字がある。回答者の90%が、「イベントが影響したにもかかわらず、CRM上では一切クレジットされていない商談がある」と認識していた。イベントが常に正当なクレジットを得ていると答えたのは、120名超のうちわずか3名である。営業も、マーケティングも、イベントの貢献を体感してはいる。しかしその貢献は、システムに記録されていないため、計測の世界には存在しない。展示会での立ち話、名刺交換に至らなかった商談客との再会、ブースを訪れていた進行案件の関係者――オフラインの接点は、どれだけ濃密でも、記録されない限り計測から消失する。

マーケティングは「効いている」と言い、計測は「効いていない」と示す。どちらが正しいのかを判定する材料が、どこにもない――本書はこれを「見えない貢献」問題と呼ぶ。多くの企業で展示会予算の議論が水掛け論に終わる、構造的な理由である。

「見えない貢献」問題
図1:9割がイベントの貢献を体感しながら、CRMには記録が残っていない。原因は記録の欠落である出典:Vendelux「2026 B2B Events Survey」(B2Bマーケティング・イベント責任者120名超)

同じ調査は、原因の所在も示している。イベントROI測定の障害として最も多く挙げられたのは「イベント後の営業活動が見えない」(64%)であり、「パイプライン・売上への帰属ができない」(55%)、「CRM連携の不備」(38%)が続く。そしてイベント投資が収益計画に完全に統合されている組織は、わずか14%にとどまった。障害として挙げられたものはいずれも、記録と接続の問題である。

さらに、計測の時間軸の問題もある。BtoBの検討期間は長い。当社のBtoB購買プロセス白書2025でも、高価格帯(1,000万円以上)の取引の54%は、検討から契約まで半年以上を要していた。展示会の成果を開催後30日で締めれば、順調に育っている案件はすべて「成果なし」として集計される。欧米の実務論では、イベントの受注貢献は半年から1年程度の長い窓で評価すべきだとされる。30日で測って「効いていない」と結論づけた展示会の中には、測り方を変えれば「効いていた」ものが含まれている。

要するに、答えは3通りある。本当に効いていない施策、効いているのに記録の欠落で効いていないように見える施策、効いているのに時間軸の設定で効いていないように見える施策。この3つを見分けられる状態を作ること――それが本書の主題である。

1-4. 日本の現在地――「測る力」こそが、先進と踊り場を分けていた

日本企業の現在地を、当社のマーケティング組織実態調査2026(BtoB営業・マーケティング職400名)から確認する。

本シリーズの前2作――『GTM Engineering Playbook』と『AI Ready Playbook』――で示した通り、日本のBtoB組織の成熟度平均は2.40/4.00であり、最上位の「先進レベル」に到達した企業は7.5%にすぎない。そして本書の文脈で重要なのは、その先進層7.5%が全体と最も差をつけていた項目である。それは、レポート活用とデータ分析――すなわち施策の成果を測り、次の判断につなげる力だった。業界全体が最も苦手とし、後回しにしている領域そのものである。

症状は、どの企業でも共通している。施策ごとの獲得数は報告されるが、獲得単価より先の数字がない。マーケティングが「リード獲得数」を、営業が「受注額」を別々に報告し、その間をつなぐ数字を誰も持っていない。回答者の58.8%が自社の状態を「分からない」と答えた事実は、施策と成果の関係が組織から見えていないことの証左でもある。

誤解のないよう強調するが、これは担当者の怠慢ではない。施策の実行は現場が担い、売上の管理は営業が担う。しかし「施策への投資と、売上という成果を、ひとつの管理単位で紐づけて追跡する」機能は、多くの組織で誰の責任範囲にもなっていない。『GTM Engineering Playbook』で指摘した「戦略と実行の間の欠落」と、まったく同じ構造がここにもある。

1-5. 欠けているのは、努力ではなく「管理単位」である

なぜ答えられないのか。ツールが古いからでも、分析人材がいないからでもない。根本の原因は、「キャンペーン」という管理単位が組織に存在しないことにある。

キャンペーンマネジメントとは、本書の定義では、マーケティング投資と収益を紐づけるための管理の仕組みである。ひとつの展示会、ひとつのウェビナー、ひとつのフォーム――費用が投じられ、リードの反応(タッチ)が発生する単位を「キャンペーン」として定義し、そこに費用と、反応した人と、その後の商談・受注を紐づける。この単位が確立していて初めて、「あの展示会はいくらの売上につながったか」は、集計可能な問いになる。

逆にこの単位がなければ、どれだけ高機能なMAやBIを導入しても、答えは出ない。名刺は取り込まれているが、どの展示会のものか遡れない。ウェビナーの参加者リストはあるが、その後の商談と紐づいていない。広告費は媒体ごとに把握しているが、どの広告がどのリードを連れてきたのか分からない。データは存在するのに、単位が揃っていないために接続できない――これが大多数の企業の実態である。

本書では、この欠落を3つに分解して診断し(第3章)、キャンペーンマネジメントの設計の型を示す。タッチの器(キャンペーン)・流入経路(リファーラル)・新規/既存判定・チャネル別固定ステータスという4層で捉える構造設計と、それによる歩留まり管理(第4章)、MQL判定と帰属モデルの設計(第5章)、案件と人の紐付けというデータ構造(第6章)、そして展示会・広告・ウェビナーの測定実務(第7章)、それを回す体制(第8章)、投資対効果(ROMI)として経営に報告する体系(第9章)へと進む。

なお本書は、特定のツールの設定手順書ではない。キャンペーンマネジメントは、どのMA/SFAを使っていても成立すべき「概念と設計の方法論」である。『GTM Engineering Playbook』『AI Ready Playbook』で整えた一意なデータ構造(シングルパーソン/シングルアカウント)とレベニューサイクルの上に、「投資の管理」というレイヤーを載せる――それが本書の位置づけである。

大金をつぎ込んでいるその展示会は、売上に寄与しているのか。毎月開催しているウェビナーは、商談を生んでいるのか。読み終えたとき、この問いに自社のデータで答えるための設計図が、手元に残っているはずである。

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本書は全11章です。この続きは第2章に進むか、全章をまとめて一気に読みたい方はPDF版をご利用ください。図版を含む全50ページを1ファイルにまとめています。

WHITE PAPER PDF版

その展示会は、売上に効いたのか。勘ではなく、データで答える。

「昨年のあの展示会は、いくらの売上につながったのか」――即答できる企業はほとんどありません。これは日本だけの問題ではなく、イベントROIを正確に帰属できないと答えたマーケターは欧米でも86%、経営層への投資の正当化に苦慮する層は98%にのぼります(Vendelux 2026)。原因は努力不足ではなく、費用と反応と商談を結ぶ「キャンペーン」という管理単位が組織に存在しないことにあります。本書は、キャンペーン設計の4層モデルから帰属モデルの使い分け、案件と人の紐付け、展示会・広告・ウェビナーの測定実務、CoEによる運用、ROMIでの経営報告までを、投資と売上を接続する手順として解説した全50ページ・図版15点の実務書です。

  • 「効いていない」のか「判定できない」のか。90%が“CRMにクレジットされない商談”を認識している構造を、管理単位・紐付け・定義という3つの欠落と8つの問いで、自社の現在地として特定できます
  • キャンペーン設計の4層モデル(キャンペーン/リファーラル/新規・既存判定/チャネル別固定ステータス)。粒度・親子3代・命名規則・統制語彙まで、半年で崩れない器の作り方
  • ファースト/ラスト/マルチタッチの使い分けと、SourcedとInfluencedを「合算ではなく按分」で併記する規律。計測期間を30日ではなく180日で締める根拠と、30/90/180日の報告のかたち
  • 案件と人の紐付け=購買グループの記録。高価格帯の購買関与は平均18.3人――窓口1名しか紐づいていない商談では、残り17人分の接点が帰属計算から丸ごと消えています
  • 展示会・広告・ウェビナーの測定実務と、段階別創出単価(新規リード/MQL/商談)によるROMI報告。「30日で見れば失敗、180日で見れば主力投資」に変わるケース対比つき

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ワンマーケティング編集部
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分断された収益プロセスを、データと技術で再設計する指南書

戦略はある。現場も動いている。 欠けているのは、その“間”だ。
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ツール導入で終わらせない、収益プロセスの再設計図。GTM設計の5ステップと、それを支える4つのレイヤーを、日本企業の前提に合わせて体系化しました。(全39ページ・図版13点)

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