AIで損益が動いた企業は5%。差を作ったのは組織設計だった
2026年7月17日、東京・丸の内で自社主催のコミュニティイベント「SIGNAL B2B Meetup Vol.2」を開催しました。テーマは「AI時代のレベニューマネジメント」です。
この日の結論を先に書きます。生成AIのパイロットのうち、損益に測定可能な効果を出せているのはわずか5%。そして95%との差を生んでいるのは、AIの性能でもツールの選定でもなく、組織設計でした。ゲストの川上エリカ氏(Xactly株式会社 日本GTM統括責任者)は、欧米ではすでに組織階層そのものがAIを前提に組み替わっていると指摘し、日本企業が越えるべき壁として「3つの分断」を挙げました。以下、基調講演と実践ワークショップの内容をレポートします。
開催日 2026年7月17日(金)
会場 ミーティングスペースAP東京丸の内
主催 ワンマーケティング株式会社
ゲスト 川上 エリカ 氏(Xactly株式会社 日本GTM統括責任者)

ビジネスへのAI活用が急速に進むなか、「AIを導入したのに売上につながらない」「業務効率化の域を出ない」と悩む企業は少なくありません。AIをいかにして自社の「レベニュー(収益)エンジン」へと変えていくのか。その戦略と実践方法をテーマにした基調講演と、自社課題に向き合う実践ワークショップを行いました。当日の様子をお伝えします。
オープニング:なぜ今、「AI×レベニュー」に向き合うのか
冒頭のオープニングでは、当社代表の垣内が登壇しました。

10年以上にわたり、MAの導入やマーケティング戦略の実行支援を行ってきた経験をもとに、現在のBtoB業界が抱えている課題に言及。「マーケターとして奮闘しながらも、どれだけビジネス(売上)に貢献できているのかと歯がゆい思いをしている方が多い」と指摘しつつ、解決のヒントをお届けしたいと語りました。
基調講演ハイライト:「AI時代のレベニューマネジメント」
川上エリカ氏による基調講演では、海外の最新トレンドと日本企業の現状を対比させながら、本質的な「AI活用」のポイントが解説されました。

登壇者:川上 エリカ 氏(Xactly株式会社 日本GTM統括責任者)
日系大手企業や外資系IT企業を経て、『レベニューオペレーションの教科書』を執筆。現在はセールスパフォーマンスマネジメント領域のリーダー企業である Xactly 日本法人の責任者を務める。
4つのポイントに分けて、要点をお伝えします。
1. 損益に貢献するAI活用はわずか5%。明暗を分けるのは「組織設計」
マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、1つ以上の業務機能でAIを日常的に使っている組織は2025年時点で88%に達しました(前年は78%)。一方で、MIT Project NANDA の調査では、生成AIのパイロットのうち「損益への測定可能な効果」を出せているのはわずか5%に留まります。
川上氏は効果を出している5%と95%の壁について、AIの性能ではなく「組織設計の差」であると断言しました。すでに欧米では、人件費全体(OPEX)の代替を見据えた「AIエージェント」の活用フェーズへと移行しており、投資規模がソフトウェア予算の枠組みを超えています。
2. 「グレートフラットニング」と、AIを前提とした組織の再設計
AIの普及により、世界規模で「組織階層の平準化(グレートフラットニング)」が進んでいます。
マネジメント層の変化:マネージャー1人当たりの直属の部下が3倍に増加。Dell社では「最低15〜20名の部下を持つこと」をルール化し、意思決定の高速化を図りました。
人員配置のシフト:規則的な大量業務がAIに代替されるなか、浮いた人的リソースは複雑な意思決定を伴う「営業(AE)」や、顧客支援を担う「プロフェッショナルサービス」へと集中しています。

川上氏は、「皆様の会社の組織図は、自社のAI戦略を語っているでしょうか?」と問いかけました。自身が統括責任者を務める Xactly 社でも、プロフェッショナルサービスを収益部門(CRO配下)へ移すなど、大胆な組織再設計を行ったそうです。
3. 日本企業の「3つの分断」と「ワークスロップ」の罠
業務プロセスが言語化されていないと、AIエージェントの稼働は難しくなります。日本企業には構造的な壁が存在しており、具体的には以下の「3つの分断」が課題になりがちです。
- 検証なき施策実行
- 分断されたデータ
- 属人化した判断
また、個別最適でAI活用を進めることの危険性として、「ワークスロップ(Work Slop)」が挙げられました。ワークスロップとは、見た目は流暢でも中身のないAI生成物が蔓延し、効率化できたつもりでも「考える負担が受け手に移転しただけ」の状態になることです。結果的に、組織全体の知識基盤を劣化させてしまいます。
4. 競争優位を生む「変えない型」と「複利のループ」
ワークスロップを防ぎ、AIの恩恵を組織全体で享受するためには、「変えない型」を守ることが不可欠です。
「型」の徹底:「Fit to Standard(標準的なオペレーションモデル)」や「GTMプレイブック」などのルールを全社で守ることで、AIにきれいなデータを学習させ、意思決定サイクルのスピードアップを図りやすくなります。
「ハーネス」の構築:AIエージェントを正しい方向性で稼働させるために、手綱となる仕組み(ビジネスロジックの定義、インハウスエンジニアの育成など)が必要です。
複利のループ:実行結果を見て修正する「トレーニングループ」を回し続けることで、AIは複利で賢くなり、その蓄積が圧倒的な競争優位性につながります。
実践ワークショップ:自社のレベニュープロセス棚卸しと「90日アクションプラン」
イベント後半は、各テーブルにコンサルタントが同席する実践ワークショップを行いました。

ここからはワークショップの内容や、参加者が自社の課題に真剣に向き合った様子をお伝えします。
ワーク①:3つの軸で自社の現状を可視化

最初のワークでは、「認知」から「拡張」に至る自社のレベニュープロセスを棚卸ししました。以下の要素から現状を整理し、「どのプロセスにボトルネックがあるのか」をあぶり出します。
- プロセス:誰が、何を、どう回しているか
- データ:何が記録され、何が抜け落ちているか
- テクノロジー:どのツールが支え、どこが人力に依存しているか

配布された記入例には、「SFAと会議Excelの二重管理」「『なぜ勝てたか』が資産化されない」「CSの気づきが営業に還流しない」など、BtoB企業が陥りがちな生々しい課題が記載されています。参加者も参考にしながら自社を見つめ直し、ペンを走らせていました。
ワーク②:AI活用と「社内の壁」を見据えたアクションプラン策定
続くワーク②では、抽出した課題に対して「AIをどう活かすか(作業の自動化、判断の支援、検証の高速化など)」を検討。さらに、想定される「社内の壁(反対・障害)」にどう先回りするか、そしてどう乗り越えるかまでを組み込んだ「90日アクションプラン」を策定しました。

リアルな課題に向き合う参加者の声
テーブルディスカッションでは、AI活用以前の構造的な課題や、現場ならではの生々しい悩みが飛び交いました。

I様「インサイドセールスから案件を上げても、営業側が既存顧客を優先し、新規アプローチが後回しにされてしまう課題があります。また、獲得したリードを精査するプロセスが属人化しており、手動で行っている部分が多いことも課題です。導入したSalesforceを活用し、営業との密な連携や仕組み化を進めたいです」
S様「GTM戦略(市場進出戦略)という言葉があっても、現場の末端まで下りてきていない、あるいはそれに合った評価フローが整備されていないなど、組織の構造的な問題がチーム内で挙がっていました」
K様「果たして、AIで生成したコンテンツを社外に向けて使用していいのか。ガイドラインなどの知識や情報の整理が追いついておらず、今後どう対応すべきか悩んでいる声が挙がりました」
悩みの声が多い一方で、「公開データをAIに入力し、営業向けのメール情報を自動生成する仕組みを試験的に始めている」といった、先進的な取り組みを共有する参加者も見られました。
ネットワーキングパーティー:熱狂の「BtoBマーケティングクイズ大会」
白熱した議論のあとには隣の会場へ移動し、ネットワーキングパーティーを開催。お食事とお酒を片手に、参加者同士で活発な名刺交換が行われました。

一段とパーティーを盛り上げたのが、チーム対抗で行われた「BtoBマーケティングクイズ大会」です。
- 「マーケティングの4Pを提唱した学者は?」(正解:マッカーシー)
- 「BANTの『T』は?」(正解:Timeframe)
- 「『顧客が欲しいのはドリルではなく穴である』と言ったのは?」(正解:セオドア・レビット)
- 「GDPRが施行されたのは?」(正解:2018年)
古典的なマーケティング用語から、「RAG」「プロンプトインジェクション」といった最新のAIトレンドまで、全10問が出題されました。

初対面の参加者同士もチームで大いに盛り上がり、見事優勝に輝いたチームの皆様には、スターバックスチケットが贈呈されました。
クロージング:「マーケティング」から「レベニュー」へ
イベントの最後には、再び当社代表の垣内が登壇し、皆様へのメッセージと事業方針をお伝えしました。

「ワンマーケティングという社名で13年間やってきましたが、マーケティングの領域だけではビジネスへの貢献に限界があることを、非常に強く感じています。我々は今後、マーケティングの枠を超え、レベニュー(収益)に特化した事業へと大きく転換を図ります。それに伴い、2027年1月には社名も新しく変更いたします」
ワンマーケティング社内では、すでに全社員にAI(Claude)のアカウントが配布され、「AIネイティブな組織」への変革を実践中です。「人の役に立つはずのシステムが、現場では負担になっている。この『動かないプロセス』を『動くプロセス』に変えていきたい」という想いとともに、参加者の皆様自身が自社のチェンジリーダーとなって「組織を動かしてほしい」とエールを送りました。

おわりに
今回の「SIGNAL B2B Meetup Vol.2」は単なるAIツールの使い方ではなく、「AIを前提とした組織とプロセスをどう設計するか」という本質的な問いに参加者全員で向き合い、非常に濃密な時間となりました。
ワンマーケティングは今後も、"マーケティング変革を共に進める仲間づくり"をテーマに、実践的な学びと交流のコミュニティを提供してまいります。次回イベントで、皆様と再びお会いできることを楽しみにしております。
次の一手は、AI Ready Playbookを読む
ここまでの内容を、実務でそのまま使える形にまとめた資料をご用意しています。自社の現在地を確かめ、次の一歩を具体化するのにお役立てください。
WHITE PAPER フォーム登録不要
AIは導入した。成果が出ない。原因は、AIの下のデータにある。
生成AIの成否を決めるのは、AIの性能ではありません。導入率88%に対し、AIから意味ある事業価値を得ている企業は約6%(McKinsey 2025)。日本のBtoB企業400社調査でも、AIを業務に組み込めているのは37.6%にとどまります。本書は、精度を壊す汚染源の特定からデータ基盤の設計、アーキテクチャの分水嶺、生成AI6ユースケースの実装、ガバナンス、売上への接続までを、レベニューサイクル全体を“AI Ready”に整える手順として解説した全43ページ・図版10点の実務書です。
- AIの精度を壊す5つの汚染源と、10項目の点検リスト。重複データは「最も確度の高いリードから順に見えなくする」——なぜ精度が出ないのかを構造で特定できます
- シングルパーソン/シングルアカウント。法人番号を軸にした企業の名寄せ、人の名寄せキーの優先順位と生存ルール、静的×動的データの持たせ方
- 購買グループ(ユニット)を4つの役割で構造化する。「1社1担当者」のデータ構造が受注を遠ざける理由と、企業→部門→人→ユニット→案件関与の実装
- MA/SFAで完結してよい企業と、DWHへ進むべき企業の分水嶺。三層アーキテクチャ、成否を分けるリバースETL、失速しないスモールスタートの3段階
- 生成AI活用6ユースケースを「効果×必要なデータ整備レベル」で並べた着手順。データオーナー表・引き渡しSLA・自動化レベルの設計から、KPIツリーで売上の言葉に翻訳するまで
出典情報の詳細
- McKinsey & Company『The state of AI in 2025: Agents, innovation, and transformation』(2025年11月・105カ国/1,993名)— 1つ以上の業務機能でAIを日常的に使う組織は88%(前年78%)。なお同調査では、EBITへの効果があったと回答した組織は39%で、その多くは全EBITの5%未満。https://www.mckinsey.com/capabilities/quantumblack/our-insights/the-state-of-ai
- MIT Project NANDA『The GenAI Divide: State of AI in Business 2025』(2025年7月)— 生成AIのパイロットのうち、損益に測定可能な効果を出せたのは5%。同報告は査読を経ていない予備的報告(Preliminary Findings)であり、対象は全社的なAI活用ではなく生成AIのパイロット/カスタムツール。原典のリンクは現在アクセスが制限されている。

