AI 2026.08.06 読了 約14分 / 6,772字 著者:種田 悠平 SHARE

セールス・マーケのAI活用、売上に効くのはどこか

「AIを導入したのに、数字が動かない」——BtoBの営業・マーケティング現場から、この声が絶えない。原因は導入の有無ではない。AIには2種類ある。定型業務を代行する「作業AI」と、意思決定に踏み込む「判断AI」だ。多くの企業は、前者にしかAIを使えていない。

国内調査(ファネルAi『BtoB営業×AI活用実態調査2026』、BtoB企業の営業担当者・マネージャー103名対象、2026年2月実施のインターネット調査)では、「売上成果なし」が81.1%を占めた。「明確に貢献した」はわずか4.1%だった。

本記事では、海外の実証データ(Gong Labs・Demandbase・6sense等)と国内調査を突き合わせる。獲得から受注・CSまでのファネルのどこでAIが「効いて」おり、どこでまだ「幻滅」を生んでいるのかを仕分ける。そのうえで、各フェーズで何を入力し、何を出力させ、どこで人が判断するのか——施策の単位まで降ろして示す。

なぜ「AIを入れたのに効かない」と感じるのか

国内で伸びているのは、どんな業務か

ファネルAiの調査で、AI活用が進んでいる業務の上位は次の通りだ。議事録の作成・要約が62.2%、提案資料・スライド作成が50.0%、メール文面の作成が45.9%。いずれも「すでにある情報を整形・要約する」定型業務である。

PwC「日本企業におけるB2Bセールス業務への生成AI活用実態調査2025」(売上高500億円以上の企業に所属する部長職以上487名対象、2025年11月実施)でも、生成AIの導入率は68%に達する。だが、導入済み企業のうち収益への貢献を実感しているのは29%にとどまる。生産性は上がっているのに、売上には届いていない。

逆に、進んでいないのは何か

一方、活用が進んでいない業務は、失注・保留案件の掘り起こしが9.5%、リードの優先順位付けが10.8%、アップセル・クロスセル機会の発見が6.8%。これらはすべて「何を・誰に・いつ」を判断する業務だ。

国内のAI活用を左右で対比した図。左の「作業AI」は議事録の要約62.2%・提案資料の作成50.0%・メール文面45.9%と定着し、右の「判断AI」はリードの優先順位付け10.8%・失注案件の掘り起こし9.5%・アップセル機会6.8%とほぼ手つかずで、中央の破線が両者の断絶を示す
国内のAI活用を左右で対比した図。左の「作業AI」は議事録の要約62.2%・提案資料の作成50.0%・メール文面45.9%と定着し、右の「判断AI」はリードの優先順位付け10.8%・失注案件の掘り起こし9.5%・アップセル機会6.8%とほぼ手つかずで、中央の破線が両者の断絶を示す

作業AIと判断AIは、どこで分かれるのか

作業AIは情報を整えて完結する。判断AIは、その情報をもとに次の一手を決める。同じ「商談録音をAIにかける」施策でも、どちらに転ぶかは分かれる。境目は3つに現れる。

  1. 入力の範囲:1つのツールの中だけを見ているか、MA・SFA・Web行動まで横断して見ているか。参照範囲がツール1つに閉じている限り、AIの答えは担当者がすでに知っていることの再掲になる。
  2. 出力の粒度:「要約」で終わるか、「誰が・いつまでに・何をするか」まで出るか。要約は工数を削るだけだ。次の一手が出た時点から、AIは判断の材料を作り始める。
  3. 人の承認位置:AIが実行まで済ませるのか、AIが候補と根拠を並べて人が採否を決めるのか。判断業務では後者が現実解になる。

この3点は、AIモデルそのものの性能の話ではない。何を渡し、どんな形で答えさせ、どこから人が引き取るか——モデルの外側に組む仕組みの話である。AIエージェント開発の分野では、この外側の仕組みをハーネスと呼ぶ。同じ生成AIを使っていても、ハーネスの設計次第で、それは作業AIにも判断AIにもなる。裏を返せば、モデルだけを新しいものに乗り換えても、ハーネスが同じなら出てくるものは変わらない。

この3点で自社の施策を見ると、議事録AI・メール文面AIが作業に留まる理由がはっきりする。入力は1ツール、出力は成果物そのもの、承認は不要——判断の余地が、そもそもハーネスに組み込まれていない。

海外の実証データが示す「効くAI」の条件

なぜAIの使い方で勝率が50%も変わるのか

Gong Labsが1,418の営業組織・100万件超の営業機会を分析したデータでは、AIの使い方によって勝率の差がまったく違う。AIが提示したToDo(フォローアップメール、見込み客への催促、日程の確認)を実行して「活動を最適化」した層は、勝率が50%高かった。商談やアカウントについてAIに問い合わせて「情報を活用する」使い方では26%、競合への言及や価格の反論といった会話中の重要局面をAIに検出させて「案件をどう進めるかガイドする」使い方では35%だった。

最も差が大きかったのは、情報を集める場面ではなく、次の一手を決める場面にAIを使ったケースだ。これは前章の構図と一致する。作業(情報収集・整理)より判断(次の一手の決定)にAIを使うほうが、成果に直結しやすい。

データを統合すると、なぜ転換率が上がるのか

Demandbaseの調査部門が公開した『B2B AI GTM Report』は、商談化前のバイヤー接点240億件超、広告キャンペーン42.9万件超、同社プラットフォーム上の1,452テナントを分析したものだ。統合の効果がはっきり出ているのは2点ある。CRM・MA・複数の予測モデルを接続した組織では、MQA(適格と判定されたアカウント)からパイプラインへの転換率が22%を超える。また、マーケティングと営業をバイインググループ単位で揃えたチームは、リード単位で動くチームの2〜3倍の勝率を得ている。個別のツールにAIを載せるだけでは、この差は出ない。

6senseの調査(バイヤー4,000名超対象、2025年11月発表)では、94%のバイヤーグループが初回接点の前にベンダーを順位付けしていた。そして実際にその第一候補から購入したケースが77%を占めた。営業が動く前の段階で、すでに勝負がついている。ここに判断を支えるデータ統合が効いてくる。

AIに全部任せると、なぜ効果が出ないのか

McKinsey『The State of AI in 2025』(2025年11月5日発表、105カ国1,993名対象)では、62%の組織がAIエージェントを少なくとも試している。だが、EBIT(利払い前・税引き前利益)への全社レベルの効果を報告できているのは39%にとどまる。

試験導入と、成果への転換の間には大きな溝がある。AIエージェントを入れただけでは、判断業務の成果には直結しない。前述のGong Labsのデータが示す通り、「案件をどう導くか」という具体的な役割設計——すなわちハーネス——に落とし込んで初めて、勝率という成果に変わる。

ファネル別に仕分ける「効くユースケース/幻滅するユースケース」

獲得フェーズ:量を増やす前に、何を判断させるか

前章のDemandbaseのデータが示す通り、マーケティングと営業をバイインググループ単位で揃えたチームは、リード単位で動くチームの2〜3倍の勝率を得ていた。獲得フェーズで最初に効くのは、送る量ではなく、当てる単位と宛先の決め方である。Salesforce『State of Sales』(第7版・営業職4,050名対象)についても、成績上位のチームはプロスペクティング(見込み客の発掘)にAIエージェントを使っている割合が下位のチームの1.7倍だったと複数の媒体が報じている。

ただし、量を増やす方向へ振ると逆に働く。Gartnerが公表した調査(B2Bバイヤー632名・2024年8〜9月実施)では、73%のB2Bバイヤーが、的外れなアウトリーチを送ってくるサプライヤーを意図的に避けると回答した。獲得フェーズのAIは、量を増やすほど成果が出るわけではない。精度を欠けば、むしろバイヤーの離脱を招く。

効く形にするには、文面を書かせる前に「誰に当てるか」をAIに判断させる順序になる。施策は3つに分けられる。

  • ターゲティングリストの自動生成:過去の受注・失注実績、企業属性、Web行動、受注パターンの類似度を入力し、相性スコア順の候補リストを出力させる。抽出条件のSQLをエンジニアに依頼する工程を挟まず、条件を変えるたびにリストを作り直せる状態にしておく。
  • 獲得時点のエンリッチメント:フォーム入力・名刺・展示会リストを取り込んだ瞬間に、法人番号・年商・従業員数・業種を自動付与する。後段のスコアリングとセグメントの精度は、この初日のデータ粒度で決まる。
  • 購買グループ単位の宛先設計:1人のキーマンを追うのではなく、同一アカウント内の複数接点をまとめて1件として扱う。誰が意思決定に関与しているかの推定までAIに出させ、当てる順番と最初の1通は人が決める。

逆に、幻滅を招くのは順序が逆になったときだ。宛先の判断を担当者の勘に残したまま、文面生成だけを自動化すれば、的外れなアウトリーチの量が増える。「この宛先を選んだ根拠のシグナルは何か」に答えられない配信は出さない——この一線が歯止めになる。見るべき数字も、送信量や開封率ではなく、根拠シグナルを持つ宛先の比率と、そこからの商談化率になる。

育成・商談フェーズ:出力が「要約」で止まっていないか

前章のGong Labsのデータでは、「情報を活用する」使い方の勝率の差は26%にとどまり、「案件をどう進めるかガイドする」使い方では35%だった。この差は、施策の設計に落とせる。

  • 商談前ブリーフィングの自動生成:商談化や日程確定をトリガーに、インサイドセールスの活動履歴・リードの関心領域・商談化の経緯を統合し、想定課題と切り出し方まで1枚で出す。担当者は複数ツールを見て回る代わりに、確認と補正だけを行う。
  • 商談記録の構造化:録音を文字起こしして終わりにせず、課題・価格・競合・導入時期をタグとして抽出し、SFAの活動レコードへ書き戻す。抽出されたタグは商談直後に担当者が一度だけ確認して確定させる。次の商談の前提が、担当者のメモではなくデータ側に残る。
  • 引き継ぎカルテ:マーケ→IS→FSの受け渡しで、行動履歴・関心・想定課題・次アクションをAIが構造化して渡す。渡す前に、前工程の担当者が想定課題の解釈だけ補正する。後工程が経緯を聞き直す時間が消え、同じ質問が繰り返されない。
  • 勝ち・負けパターンのプレイブック化:受注・失注の案件データと商談テキストから再現性のある型を抽出し、進行中の商談に類似の失注予兆が出た時点で警告する。個人の振り返りに留まっていた学習が、全案件に効くようになる。

効いているかどうかの判定は、どの施策でも同じ問いでできる。AIの出力に「誰が・いつまでに・何をするか」が入っているか。 入っていなければ情報活用の域を出ておらず、勝率は動きにくい。たとえば「一定期間動きのない商談に、前回の発言タグを根拠として次アクションの候補を提示する」——ここまで具体化すれば、案件をガイドする使い方に変わる。

CS・アップセルフェーズ:手つかずだからこそ、先に取れる

国内調査では、アップセル・クロスセル機会の発見にAIを使っているという回答はわずか6.8%だった。失注・保留案件の掘り起こしも9.5%にとどまる。海外ではデータ統合とバイインググループ単位の運用で判断業務への適用が数字に出はじめているが、国内はまだ手前の「作業AI」で止まっている企業が大半だ。

裏を返せば、ここは競合も手をつけておらず、しかも既存顧客という最もデータが揃った領域である。着手しやすい施策は3つある。

  • 兆候の常時監視とアラート:利用状況・問い合わせ内容・更新期の接触状況を監視し、アップセル機会と停滞・解約の予兆を検知してCS・営業へ通知する。人が気づいたときだけ動く運用から、検知されたら動く運用へ変える。
  • 失注・保留案件の再点火:全件を掘り返すのではなく、再アプローチの根拠になる変化——担当者や決裁者の交代、組織変更、採用の動き、予算期の到来——を条件に候補を絞り、再接触の理由とセットで営業へ渡す。
  • 関心マッピングからのクロスセル:既存顧客のWeb閲覧(製品ページ・事例・料金ページの再訪)から関心カテゴリを判定し、「次に提案すべき製品」の候補を出す。

ただしこの3つは、契約・利用のデータがCRM側の顧客と同じIDで紐づいていることが前提になる。紐づかないまま兆候検知を始めると、誤検知のアラートが積み上がり、通知そのものが無視される運用に落ちる。

獲得・育成商談・CS/アップセルの3段階ファネルを中央に置き、上段に「効くユースケース」(バイインググループ単位で勝率2〜3倍、案件ガイドで勝率+35%、既存顧客データの活用)、下段に「幻滅するユースケース」(的外れな配信は73%のバイヤーが回避、情報活用どまりで勝率+26%、国内のアップセル活用6.8%)を対比配置した図
獲得・育成商談・CS/アップセルの3段階ファネルを中央に置き、上段に「効くユースケース」(バイインググループ単位で勝率2〜3倍、案件ガイドで勝率+35%、既存顧客データの活用)、下段に「幻滅するユースケース」(的外れな配信は73%のバイヤーが回避、情報活用どまりで勝率+26%、国内のアップセル活用6.8%)を対比配置した図

どのフェーズから着手するか

3つのフェーズを同時に進める必要はない。優先順位は次の3点で決まる。

  • データが繋がっている範囲:AIの参照範囲が広い場所ほど判断の質が上がる。施策から先に選ぶと、たいていデータ側の未整備で止まる。
  • 判断の反復回数:毎日・毎週繰り返す判断(今日誰に連絡するか)は、月に数回の判断より効果が積み上がる。
  • 誤りのコスト:外しても人が引き返せる判断から始める。取り返しのつかない判断は、AIに材料を作らせるところまでに留める。

この3点で見ると、多くの企業の出発点はリードの優先順位付けと商談前準備になる。どちらも毎日発生し、AIが外しても人が直せて、必要なデータがMAとSFAにすでに存在している。

施策を運用に載せるとき、決めておくこと

判断AIの施策は、入れた瞬間が完成形ではない。スコアの当たり外れや、提示される次アクションの妥当性は、使いながら直していくものになる。直す対象はモデルではなくハーネス——入力の範囲・出力の粒度・人の承認位置——であり、ここを見る係を決めずに始めた施策が、数か月後に「誰も見ないスコア」として残る。

精度を見る担当を置く。 AIが出したスコアや提示が外れたとき、それを拾って直す役割がないと、現場は静かに使うのをやめる。マーケ・IS・営業のいずれかに寄せるのではなく、部門を横断してデータと出力の品質を見る担当(RevOps機能)を置くのが実務的だ。

評価する指標を、工数から転換率へ移す。 作業AIの評価軸は削減できた時間だった。判断AIでは、提示された次アクションがどれだけ実行され、その先で商談化・受注にどれだけ繋がったかを見る。実行率が低いままなら、外しているのは精度ではなく提示の粒度やタイミングである可能性が高い。

外れた案件を定期的に開く。 週次で数件、AIの提示と実際の結果がずれた案件をレビューし、原因を「入力データが足りない」「出力が粗い」「タイミングが遅い」のどれかに切り分ける。この振り返りの有無が、そのままAI施策の寿命を決める。

まとめ

Q1. AIを導入すれば売上は伸びる? 導入だけでは伸びない。冒頭で見た通り、国内調査では「売上成果なし」が8割を占めた。効くかどうかは、作業(情報整理)に使うか、判断(意思決定)に使うかで決まる。

Q2. 何から着手すべきか? 毎日繰り返され、外しても人が引き返せる判断から始める。リードの優先順位付けと商談前準備が出発点になりやすい。必要なデータはMAとSFAにすでにあり、新しい投資の前に着手できる。

Q3. 議事録AI・メール文面AIはもう十分か? 定型業務としては定着している。だが出力が成果物そのもので終わり、次の一手を含まない。そこで投資を止めれば、判断への適用で見えている勝率の差を取りこぼす。

Q4. 判断業務にAIを使うのは危険ではないか? 判断を丸ごとAIに委ねる必要はない。McKinseyの調査では、AIエージェントを少なくとも試している組織が62%ある一方、全社レベルのEBIT効果を報告できたのは39%だった。導入したかどうかより、AIが候補と根拠を揃え、人が採否を決めるところまでハーネスを設計できているかが分かれ目になる。


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AIの活用が売上に直結するか否かは、定型業務への利用に偏るか、判断業務にも切り込むかで大きく変わります。特に、情報を整理するだけでなく、次の一手を決定する場面でのAI活用が求められています。そこで役立つのが、手軽に自社向けのGo-To-Marketプランを生み出す「GTM Generator Apps」。数問の入力で御社に最適な戦略設計を助けるこのツールが、AI活用の新たな領域を開拓する第一歩となるでしょう。

この記事を書いた人

種田 悠平
種田 悠平
新宿生まれ新宿育ち。 大学卒業後はアパレルで販売職に従事し、その後IT業界へ転身して法人営業を経験。 2020年よりワンマーケティングに参画し、コンサルタントとしてMA/SFAの導入・運用支援に携わっています。
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